大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネージャー経験を経て、14年より現職。


ROEという玩具ではしゃぐ市場のお子ちゃまたち…いい加減にせい!
【No.0022】
2014.08.20
ROEの見方に関する理解不足がはなはだしい!高ければいいという問題ではない。
JPX400の誕生以来、日経や経済誌で見ない日はないというくらい、ROEが注目されている。ROEは、言うまでもないが「利益(R)÷自己資本(E)」であり、これが高いほうが良い会社と言われている。これに対し、筆者は、基本的な考えとして否定はしないが、大きな落とし穴があると思っている。
この点を、次の例で示してみよう。特に、女性の市場参加者にお読み頂きたい。
ここに、AとBという2人の30歳の男がいる。共に年収1000万円で5000万円のマイホームを最近買ったとする。Aは全額キャッシュで買った。Bは2割の頭金(1000万円)と4000万円の借入で買った。A、Bとも他にめぼしい資産がない(金融資産も無視できる額にすぎない)と仮定する。この2人の男性的魅力が同じとしたら、AとBのどちらかと結婚したいと思う女性は、どちらを選ぶか?
普通は、借入がなく健全と思われるAを選ぶであろう。しかし、株式市場では、Bが選ばれるらしい。なぜなら、Bの方がROEが高いからだ。
Aは、資産がマイホーム5000万円、借入ゼロだから自己資本5000万円。Bは資産が同じく5000万円だが、借入が4000万円あるので、自己資本は頭金相当の1000万円である。「年収=利益」と単純化して考えると、AのROEは20%、BのROEは100%である。Bを上場会社に置き換えると、今の「お子ちゃま」株式市場では、素晴らしい高収益率ということもてはやされる可能性が高い。しかし、どう考えても、何から何までAの方が素晴らしいに決まっている。
この結論の相違は何から来るのか?
それは、適正自己資本という概念がスコンと抜けたまま、ROEの多寡のみで、会社の良し悪しが判定されていることに起因する。
「個人で言えば、自己資本は大きければ多いほどいいに決まっている。それなのに、無借金のAと借入でレバレッジを効かしているBを、同じ土俵で比較しているところに問題がある」。そのような反論が聞こえてくるようだ。至極当然の指摘である。しかし、私が言いたいのは、それと同じような、不適切な比較が株式市場で平然と行われていることだ。
馬鹿でもわかることだが、ROEは、資本不足の会社の方が、通常の健全会社より必ず高くなる。このことを最近改めて認識させられたのは、当初JPX400に選ばれた地銀の顔ぶれを見たときである。どの銀行とは言わないが、そこで選ばれている「高収益地銀」は、いわゆる健全地銀と比較して明らかに資本水準が低かった。一方で、健全地銀の代表格である七十七銀行や中国銀行は、恐らく「ROEが低い」という理由で選ばれていなかった(中国銀行は入替で新たに選出されたが)。銀行のように、規制業種であり、かつ多額の預金(要は銀行にとって借金である)を集めて初めて事業を行える「常時超レバレッジ業態」では、自己資本が低いとROEが急激に高くなるが、そうした財務内容でROEが高いことなどほとんど価値はない。そのような高ROE銀行には、現在のROEが高いことを自慢する余地は無く、経営者は、逆に自己資本比率の低さが日々気になってしょうがなくて、早く資本水準を上げたいと考えているはずだ。そうなれば、ROEは平凡な水準に戻る。要は、今の高ROEを低下させたいと考えている銀行が、今の高ROEを理由にJPX400に選ばれるという皮肉な結果になっているのである。

DebtはDEADへの近道
再び、冒頭の個人の例に戻ってみよう。
Bは年収1000万円から、今後4000万円の住宅ローンの金利と元本を返さなくてはいけない。ここで注意すべきは、圧倒的に負担が重いのは、金利支払いよりも元本返済なのに、損益計算書には金利負担しか反映されないことだ。
この点から、A、B両名の状況を見直してみると、Aは、年収1000万円から生活費を引いて余ったお金を、自由に使える。自己啓発といった「研究開発」に使ってもいいし、レジャーに使ってもいい(企業で言えば「福利厚生」であろう)。場合によっては、奥さんに贈与もできる(企業で言えば、「自社株買い」のようなもの!)。場合によっては、賃貸不動産の購入といった「設備投資」だってできる。一方、Bには、全くそのような余地は無く、恐らく少なくとも10年は生活費以外の余剰分の全額を返済に回さないといけない。
このことも、一つのインプリケーションである。市場は、借入を増やして財務レバレッジを高めた企業の借入負担をあまりにも軽視しているのだ。
昔の人は、「DEBT(借入)はDEAD(死)」と言ったそうだ。この怖さは、直近で言えばリーマンショック後、その前では97年から99年の金融危機の銀行による貸し渋りのときに、多くの企業が経験しているはずだ。しかも、冒頭の例で言えば、Bの所有マイホームの価値が2割以上下落したら、マイホームを手放して売却しても負債を全額返済できない。そこで失業が襲ってきたら、それこそ「The End」である。
そんな借入の怖さも知らず、財務安定性を無視した上でのROEが高い低いといった単純な議論を、銘柄選択の過程で我が物顔に展開しているお子ちゃまが、最近市場では散見される。もう一度、繰り返す。ROEは、財務安定性が万全な会社について、初めて語れる経営指標である。アマダは、財務安定性が高いからこそ、あれほどの株主還元ができるわけであり、そのような経営環境にある会社自体が稀と思われる。そのことは、自分が中小企業経営者になったと仮定すれば簡単にわかる。中小企業は、自社の利益と資本の両方を「絶対額」で少しでも増やし、有利子負債を「絶対額」で少しでも減らしたい、との思いで日夜奮闘している。その結果、ROEがどうなるかなんていうのは、あくまで単なる数値結果であって、経営目標にはなりえない。そのような経営者たちに、インタビューしてみたらいい。「あなたの会社のROEは何%ですか?どうやってROEを増やそうと思いますか?」
私が中小企業経営者なら、こう言って追っ払う。「寝言を言うな!利益を出すこと、資本を増やすこと、それ自体が容易でないのに、そんな悠長なこと考えている暇はない!」。
結局、企業を見るのに、最初からROEで語ること自体が、経営センスがないことを示しており、そのような人に適切な投資感覚があるとはとても思えない。

大木昌光


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