大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネージャー経験を経て、14年より現職。


株主フレンドリーの施策が法人税収を減らすリスク
【No.0025】
2014.08.28
バフェット氏がバーガーキング本部の米国からカナダへの移転を手助け
8月27日のFINANCIAL TIMESによれば、バーガーキングがコーヒー・ドーナツチェーンのTim Hortonsを買収する一環として、本部を米国からカナダに移すという。そして、その目的が、米国の高い法人税からカナダの低い法人税に変えて税負担を節減することであり、かつ、著名投資家のバフェット氏が率いるBerkshire Hathawayが30億ドルを拠出することで、その買収ディールに能動的に関わっているという。
これは、米国籍のファイザーが、英国籍のアストラゼネカへの買収を通じて、本社を法人税率35%前後の米国から同税率21%の英国に移そうとしていた試みを彷彿とさせる。
このように、M&Aを通じて本社を海外に移転させることは、英語で「inversion」と呼ばれているようであり、特にそれを通じて税負担を軽減させようとすることについては特に「tax inversion」という英語が定着しているようだ。
この記事を読んで感じたことが2つある。
一つは、記事にも出ていたが、バフェット氏の名前にちなんで「バフェットルール」とも呼ばれている新たな税制、すなわち100万ドル以上の収入のある世帯には30%以上の税金を貸すべきというルールが作られたが、その制定に向けて米国内で尽力してきた本人であるバフェット氏が、バーガーキングの節税目的と思われる本社移転をサポートしていることの衝撃である。
これを見て思い出したのは、オリックスと会計基準の関係である。
オリックスは、古くから米国会計基準を採用してきた会社として有名であるが、日本のリース会計基準が変わる前の彼らの株主通信を見ると、「リース事業を正しく把握するためには、日本式の賃貸借的会計処理よりも米国式の金融的会計処理のほうが優れている...」と明言している。しかし、2000年代中盤に、日本のリース会計基準変更の議論(要はリースを「賃貸借」ではなく「金融」として捉えようとする発想)が企業会計基準委員会で議論されていたときは、当時のオリックスの経理部長が、リースは賃貸借なので日本の会計基準は変えないほうがいい、と矛盾することを主張していた。詳しい議論は省くが、ファイナンスリースが賃貸借ではなく金融取引と捉えられると、借り手(オリックスから見た顧客)のバランスシートにリース物件を計上する必要があり、そうなるとリースのオフバランスメリットがなくなりリース需要が減ると考えて反対していたと見られるが、筆者はこのことに大変大きな憤りを感じた。このようなエゴを、リース業界の最大手企業が示して良いのか?また、当時は政府の規制改革会議の座長を宮内会長が勤めていて、彼は他の業界の旧弊にはバシバシと大ナタを振るうことをしていたが、自分の業界については頬かむりをしていたことになる。
今回のバフェット氏の言行が、この例と一致するとは思わないが、一般論としては、大変残念な行為と言わざるをえない。税金は、自社が恩恵を受けている市場の存在する国家に、しっかりと納めるべきではないかと感じたのである。

株価が上昇して法人税が減るリスク
FT記事を読んだ2つ目の感想は、日本の詳しい税制はわからないが、米国並みの高い税金を求められている日本を捨てる日本企業が出てきてもおかしくはないということである。
筆者は、もともと日本の法人税減税にはあまり賛成していない。なぜなら、他の国が税金が安いから日本も安くしようという発想は、「隣の店がコロッケを50円で売っているから、うちも70円から50円に下げよう」という単純な価格競争に囚われた議論であり、それこそ安いハンドバッグが1万円以下で売られているのに対し、ルイヴィトンがハンドバックを10万円以上で売るというように、商品やブランドの差別化のような発想で税制も捉えるべきだと思っていたからだ。しかし、ファイザーやバーガーキングの記事を読むと、日本の有力企業が国籍を捨てて実を取る可能性だって否定できないように感じざるをえなくなった。日本の企業は、幸いにも、稼がせて頂いた場所で税金を払おうという高い倫理観を有していると思われるので、すぐには日本離脱は起こらないであろうが、将来はわからない。
ちなみに、今政府は、スチュワードシップコードとか社外取締役制度の更なる浸透や、株主統治の傾向を強めるべくファンドを始めとする株主の発言権の強化に向けて、積極的に動いている。それは、株価維持には確かに一定の効果を有するかもしれない。しかし、それが究極的に推し進められると、多国籍展開する日本の上場企業は、場合によっては株主等から、少しでも利益を上げるべく、税金が低い国への本社移転のプレッシャーを強く受ける可能性がある。その意味では、大変皮肉なことであるが、政府は、株価を高めようとしている各種施策を矢継ぎ早に打ち出すことで、将来の法人税減税の芽を生み出している可能性がある。そのことに、日本の政治家や投資家の何人が気づいているであろうか?それでも、各種施策を実行していくというのであれば、早急に法人税減税を行い、現段階で日本企業の海外移転の動きを未然に防ぐべきであろう。今の政府の施策が、日本企業の時価総額を倍増させて、税収が半分になるというのでは、日本国民の一人として、泣いても泣ききれない。


大木昌光


※ 当コーナーは、投資家の皆様への情報提供を目的としてファイブスター投信投資顧問株式会社が作成したものです。 当コーナーに掲載する記事の中には、当社設定投資信託をはじめ特定の金融商品を取り上げている場合がございますが、これらの金融商品の売買を推奨・不推奨するものではありません。投資に関する最終判断は、投資家の皆さまご自身でなさるようにお願い致します。また、当コーナーの掲載内容に基づいて行った投資行為の結果については、当社は何ら責任を負いません。
※ 当コーナーの内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
※ 当コーナーの内容に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。