大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネージャー経験を経て、14年より現職。


遠ざかるメガバンクによる自社株買い…資本規制は想像以上に重い
【No.0027】
2014.09.22
銀行の資本規制は、ますます複雑かつ達成困難に
銀行以外の上場企業の自己資本比率は、決算短信の1枚目を見れば簡単にわかる。しかし、銀行の決算短信の1枚目に表示されている自己資本比率は、銀行セクターで一般に用いられる「自己資本比率」とは異なる数字となっている。
その理由は、銀行セクターで一般に使われる「自己資本比率」が、銀行の業務規制から定められている指標であり、通常の財務諸表における自己資本比率との比較で、資産も資本も、定義が異なるためである。
銀行特有の自己資本比率規制については、素人が正確に理解するには1日では難しいし、何よりも一般の人にとっては興味を持ちにくいテーマである。そこで、資産に絞って簡単に説明すると、例えば銀行が日本国債をいくらたくさん持っていても、それは銀行の自己資本ルール上は「資産ゼロ」とみなされる。逆に、株式や投信などを持っていると、仮に100円しか持っていなくてもモノによって「300円から1200円」も持っているとカウントされる。住宅ローンは、100円貸しても50円と評価され、外部保証付の貸出も、その保証主体の安定度合いによってかなり減算してカウントされる。そうしたルールの下で、銀行独自の自己資本が計算されるのだ。

日本のメガバンクについては「レバレッジ比率」に注意。一部の優良地銀は楽々クリア
ところで、米国の銀行セクターでは、既にレバレッジ比率という指標に多大な注目が集まっている。これは、住宅ローンであろうが、日本国債であろうが、100円持っていれば100円とカウントして計算した自己資本比率である。細かい部分は抜きにして言えば、これは、決算短信の自己資本比率に近い数字になると推測される。そして、この指標について、既に米銀は6%をターゲットにしているとされている。
では、この6%という数字は、達成が容易な数字なのか?
本来、この指標は、グローバルに活動するメガバンクを対象とした規制ではあるが、ここでは、財務安定性が高い地銀から静岡銀行、千葉銀行、中国銀行という優良地銀を選んでサンプル調査を行ってみた。その結果として、各行の前期末でのレバレッジ比率は6.73%、6.02%、6.2%であった。いずれの銀行も、6%の基準を既にクリアしている。逆に言えば、日本で財務安定性が高い銀行でさえ、6%を大きく超えているわけではない。したがって、他の地銀が6%に達していない可能性はかなり高いと思われる。
そして、これら銀行の、決算短信上の自己資本比率は、各7.5%、6.3%、6.5%であるが、上記のレバレッジ比率にかなり近い数字を示している。その意味では、決算短信上の自己資本比率は、今後は、使い方によっては有用な指標になるかもしれない。
では、メガバンクに目を向けてみよう?各行について、前期末の決算短信上の自己資本比率を見ると、三菱UFJフィナンシャルグループ5.1%、三井住友フィナンシャルグループ4.5%、みずほフィナンシャルグループ3.6%となっている。もちろん、この数値が、実際のレバレッジ比率とは大幅に異なる可能性があることには留意する必要があろう。しかし、一方で、レバレッジ比率6%達成を目標とするのであれば、その道のりが平坦でないことも伺えよう。
それ以外にも、グローバルに活動する金融機関に対しては、GLACという新たな自己資本比率規制が課される可能性も出てきている。
そのような環境下で、銀行の経営企画担当の立場に立って考えると、現在の配当水準の継続は仕方ないとしても、増配や自社株買いは、かなりハードルが高い決断になることは容易に想像できよう。したがって、筆者は、メガバンクの自社株買いは、今後1-2年はないと考えている。しかし、財務安定性の高い地銀は、そもそもグローバル規制の対象にならないし、どの観点から資本の十分性を検討しても、合格水準に達していると思われる。地銀については、長期金利の低下による利鞘の悪化で経営環境は必ずしも楽ではないが、少なくとも財務安定性が高い優良地銀については、株主還元の選択肢は結構多くある。地銀株堅調の理由は、この辺りにもあると思われる。

大木昌光


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