大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネジャー経験を経て、14年より現職。


プレビュー取材禁止で駆逐される「無能運用者」と「なんちゃってアナリスト」
【No.0036】
2016.04.11
プレビュー取材は違法スレスレの行為で、禁止されるのは当然
どこの会社とは言わないが、月次数字を、電話をしてきた順番に伝えるということをやっていた会社がある。その結果、早く電話をかけたアナリストから順番に、月次の情報が投資家に伝えられてきた。
その例は極端としても、四半期決算が定着して以降、各決算期末の直前にアナリストが担当企業を訪問して、足元の情報をヒアリングし、それを投資家に伝えるということが、普通に行われてきた。これに関する問題点は2つある。第一に、足元の情報を聞くと言えば聞こえはいいが、要は、決算が閉まる直前に企業を訪れて、決算発表前に、決算数値に近い数字を仕入れるということなので、企業は未公開情報を話し、アナリストは未公開情報を手に入れるということだ。未公開の情報を密室で仕入れることが、法的に問題であることは、誰も否定できないだろう。第二の問題は、アナリストが投資家に伝えるときに、レポート等で全ての客に平等に情報提供するならまだしも、特定の客に早耳情報として伝えることが横行していた疑いがあることだ。それを基にトレードしたら、フロントランニングという違法行為に該当する恐れがある。
私自身が証券会社から運用会社に転じてびっくりしたのは、こうしたプレビュー取材があまりに露骨だったことだ。例えば、3つのセグメントで構成される会社があったとする。これに対し、アナリストが「Aセグメントの利益は○○億円くらいですかね?」と言うとIR担当者が「いや、そこまでは難しいかも…」と答える。次に、では「××億円ですかね?」と今度は少し下げた数字を聞くと、「そんなに少なくはないかも…」という答。この2つのやりとりだけで、Aセグメントの利益が××億円から○○億円であることが推察される。こんな感じで、3セグメントの数字を推測し、それを積み上げると、大体の全社利益が計算されてしまう。決算前にこんな形で、決算数値に近い数字が市場に出てくることが問題であることは、誰でもわかるであろう。
今年に入って、具体的な背景は捨象するが、このプレビュー取材を各証券会社が独自ルールで自制することになった。これは、方向性として、至極真っ当なことであると思われる。ちなみに、私は、証券会社のアナリストだった時、こうした、利益を企業から無理やり聞き出すような下品な取材はしたことがない。

アナリストにとって理想的なのは、企業自身の予想を超えたピクチャーを示すこと
では、私が企業に取材に行くときにどうしていたかをお話しよう。
まず、私はプレビュー取材という形の取材は一度もしたことがなかった。前期の決算発表時から次期の決算発表までの間に経済環境が異なり、会社の実績が会社計画に届かないことはままある。しかし、そうした時間経過による個々の企業の事情変更は、経済全体の変化を敏感に察知し、丹念に公表情報を分析し、それと自分の業績予想を常に照らし合わせるという作業を怠らなければ、概ね予測できると考えていたし、今もそう思っている。
話がそれたが、私が取材するときは、まず取材前に期初予想の会社前提の数字を基に自分の予想をかなり精緻に組み立てる。そして、その自分の予想数値を前提に、企業から業界環境をじっくり聞いて、自分の予想の前提となる変数が実態に即しているかをチェックする。そうしたプロセスを通じて業績の構成要素となる変数を調整し、その調整後の変数が、エクセルの計算式を通じて、自動的に自己の業績予想数値を変更することになる。ただし、そのままで自分の業績予想が完成することはほとんどなく、往々にして自分のイメージと比べて違和感ある数値が様々な点で散見されることになる。例えば、そうして計算された予想利益水準が、会社予想や自分の雑駁な見通しと比べて大きく乖離するケースが、その典型例として挙げられよう。その場合は、なぜそうした違いが出るのかを、IR担当者に対する様々な質問を通じて、再度調整していく。
私の場合、良く遭遇したケースは、業績予想を組み立てる前提数値が企業側と私の間で大きく異なることを背景に、私の業績予想と会社想定値の間にギャップが残ることである。そのような時は、大抵の場合、私は企業とのギャップを埋めないまま、自分の予想数値を公式の予想数値として出すようにしていた。これは、つい最近まで行われていたプレビュー取材で、アナリストが企業の話すままの数値に基づいて業績予想を作るのと、180度異なる。どうして、そんなことができたかと言うと、格好良く言えば、それくらい色々な角度から分析していたからである。もう少し理論的に言うと、本来は企業内部の人と比べたら、外部の人間であるアナリストの情報量は圧倒的に少ないことから、会社予想を超える予想を作れる確率は少ないように思える。しかし、企業の未来を見通すためには、往々にして、現在の企業内にある知識・情報より大切なものがあると私は考えてきた。具体的に言えば、アナリストは多くの企業のIR担当者や経営者と話す機会がある。そうした地道なプロセスを通じて広い視野を持つことで、一企業の内部にいるIR担当者や経営者では得られないようなインサイトやインプリケーションが得られることがある。アナリストのクオリティを決めるのは、この部分であると思われる。
こうして、私はよく、投資家のみならず担当企業からさえも反対されるような業績予想を時々示したが、それが結果的に正しかった確率はかなり高かったと自負している。また機会があれば詳述したいが、2002年6月のオリックスSELLレポートや、2006年1月の消費者金融SELLレポートを出したとき、私の意見は多くの業界関係者や99%の投資家から、反発を食らったと記憶している。そこでは、私は、企業が一生懸命作った予想値や将来図と全く異なるピクチャーを提示したことになる。しかし、上記のケースでは、結果的には、私の想定する通りの状況が実現した。なお、両レポートとも、ドイツ証券在籍時の出来事であったが、当時のセールス担当や上層部は、多くのお客から反対意見やクレームをもらって、大変だったと思う。しかし、それにもめげず、会社は私を守ってくれた。当時の同僚・先輩方には心から感謝している。

プレビュー取材禁止で炙り出される「無能な運用者」と「なんちゃってアナリスト」
上記のオリックスSELLレポートを書いた直後、ある外資系運用会社からは出入り禁止を食らった。その後、米国の投資家回りをしたときは、オリックスへの見方について私に反論をしながら泣き出す人や、延々と私のレポートのどこが間違っているかを説き続けた人に遭遇した。それらに代表されるように、その時は米国で大半のミーティングで大変冷たい対応をされた記憶がある。そのころから、私は、厚い層を誇る欧米投資家の中でも、ポジショントークをしたりフェアでない人が少なからず存在することや、企業の言うことや多くのアナリストのコンセンサスをありのまま受け入れる投資家が予想以上に多いことを実感していた。
だから、プレビュー取材が原則的にできなくなったことで、困っている投資家が多く発生していることは、想像に難くない。色々な市場関係者の話を総合すると、アナリストのプレビュー取材の結果をアナリストからいち早く聞きだし、それと株価の位置を天秤にかけて、買いとか空売りのポジションを取って決算を待つといった下衆なやり方をしていた輩も少なくないと聞いている。こんな投資家に、人の重要なお金を預かって運用する資格があるかどうか、はなはだ疑問であるが、こうした無能な人たちが業界から消えていくことは、株式の取引ボリュームが減ることを除けば、極めてポジティブなことであろう。
また、プレビュー取材をアナリストの側から見れば、企業から未公開情報を聞きだして客に伝えるなんて仕事は、大学生だってできる話で、そんな仕事で給料を得ようなんていうのは考えが甘すぎると思う。こうしたことが仕事の大半を占めているようなアナリストが存在するかどうかはわからないが、仮にそうした「なんちゃってアナリスト」が存在するとしたら、心を改めて自分の仕事のスタイルを変革していくことを心から願いたい。しかし、一部の人たちは、プレビュー取材禁止後に自分のスタイルを確立できず、業界から退出せざるをえないだろう。
かくして、「無能な運用者」と「なんちゃってアナリスト」は、プレビュー取材の事実上の禁止で、仕事をしていくことが困難になり、業界から駆逐されよう。これは、業界浄化に向けた、好ましい事象だと思われる。
なお、アナリスト業界の名誉のために申し上げておくと、アナリスト総合ランキングの上位にいるような人たちは、自分の独自の意見をしっかりと持ち、プレビュー取材の禁止の影響など微塵も受けないと私は見ている。アナリスト出身者として申し上げると、アナリストの仕事には今後も大きな価値があると確信している。こうした大きな業界変化を通じて、真のアナリストが、より正しい評価を受け、もってアナリストの地位が向上することを切に願っている。

大木昌光


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