No.0048

日本電産の「業績下方修正」は日本株の主役交代ののろしか?

1月17日の、日本電産による業績下方修正は、現在の経済環境は、日本電産をもってしても克服困難なのかと、驚きを持って迎えられた。しかし、翌日の株価は寄り付き直後こそ大幅な株価下落で始まったものの、その後急速に値を戻し、それ以降も概ね堅調に推移している。
その後の決算説明会を経て、多くのアナリスト・投資家は、短期的な業績の変動は仕方ないとしても、中長期的な同社の成長は不変と見るに至ったようで、市場では同社への安心感と信頼感が戻っているように見受けられる。
それに対し、強い反論をするつもりはないが、私はそこまで楽観的に同社を見ることは難しくなったように感じている。
その理由は、第一に、中国経済の変調の影響をまともに受けて、11月、12月と中国向け生産が30-40%落ちたことだ。このことは、中国マーケットにおける同社モーターのシェアがこれ以上拡大できないほどに大きくなったことを示すということは考えられないのか。
第二に、多くのセグメントで満遍なく業績が悪化したことだ。アナリストレポートを読んでみると、同社には他社にない複数の成長源があるから大丈夫だという考え方が見られる。しかし、それは今に始まったわけではなく、中国で業況が悪化した11月、12月でも状況は同じだったはず。それでも、多くのセグメントで業況が悪くなったとしたら、成長のネタが他社より多いか否かにかかわらず、将来に同様の経済悪化が生じたら、同社の今回と同様の業況悪化も免れないのではないか。それでも他社よりマシという考えはその通りであるが、だからこそ同社のバリュエーションにはプレミアムがついていると考えれば、そのプレミアムが今後も維持されるかどうかの検証も必要に思われる。
ちなみに、昨年末には、ソフトバンクの上場で、多くの個人投資家が含み損を抱えるに至っている。この状況は、言うまでもなく親会社のソフトバンクグループの方針で行われたものであり、その結果としてのソフトバンク株の低迷は、親会社にとっても多大なダメージになるであろう。
このように、昨年末から今年初にかけて、孫氏と永守氏という日本を代表する経営者が指揮を振るう会社に、異変が生じたことになる。
経営者としての手腕に優れた両氏のことだから、思い切った施策を打って、現在の窮状を撥ね返す可能性は大いにあるであろう。私も、その期待感を有している。しかし、こうした会社群から、他のセクター・企業へと、株式市場の主役が交代する可能性も否定できないように思われる。企業は経営者以上の存在にはなれない。その意味で、経営者の「器」の大きさは企業の成長にとって必須である。しかし、経営者という「個人」にも限界はある。「経営者」の見極めを欠いた薄っぺらい投資判断は無意味だが、「経営者」に惚れこみすぎた投資判断は危険である。

大木 将充