大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネジャー経験を経て、14年より現職。


個人投資家の皆様、IPO銘柄の中でファンドの出口案件には注意して下さい!
【No.0054】
2019.4.9
上場を目指していたウィングアーク1stが、3月に上場申請を取り下げた。株式市場の動向が背景とされているようだが、もっと根本的な問題が存在すると思われる。財務内容である。
 まず、この会社、2018年2月28日現在の自己資本が171億円であるのに対し、のれんとその他の無形資産の合計額(以下のれん等)が475億円もある。自己資本を超えるのれんがあることは、一概に悪いことではない。しかし、この会社については、自社の本業自体にのれん等が計上されていることが問題なのである(自己創設のれん)。これは、ファンドが旧ウィングアーク1stをLBO(leveraged Buy Out=企業買収で、買収資金を買収対象企業の資産などを担保に借入金を調達し買収すること)の形で買収したために、テクニカルに生じたものである。LBOによる自己創設のれんの計上自体は、会計上適切なものである。しかし、実体論として他の企業との比較で考えれば、我々のような投資家がこうした企業の企業価値を適切に評価するプロセスでは、こうしたのれん等は無価値のものと考えざるをえない。仮に、経営不安が生じていた1−2年前の東芝に関し、東芝の半導体事業の自己創設のれんが認められていたら、2兆円前後の資本の上乗せ要因になり、資本水準に何ら問題はなかったことになるが、そんな考え方が不適切であることは誰でもわかるであろう。したがって、投資家としては、ウィングアーク1st社の実質自己資本は、名目自己資本171億円−のれん等475億円=−304億円と判定せざるをえない。つまり、実質債務超過企業と同等の状態ということになる。
 第二の問題点は、同社の2018年2月28日現在の有利子負債234億円の大半が、現在の同社親会社に当たるファンドが、旧ウィングアーク1st社を買収するために調達した借入だということである。つまり、この有利子負債は、同社の本業から生じたものではない。
 つまり、総じていえば、今回のIPO案件は、ファンドが調達した借入を押し付けられ、かつ、実質債務超過状態にある会社の上場案件ということになる。この会社の2018年2月期の当期利益が29億円であることとの対比で見ると、有利子負債234億円、実質債務超過額304億円という事実は、あまりにも重すぎる負の遺産であるように見える。
 このように、個人投資家の皆様には、「ファンドの出口案件には要注意」と申し上げたい。そして、そうした案件については、上記の私の計算方法を用いて実質自己資本の額を計算した上で、有利子負債の源泉も是非チェックして頂きたい。そのようなちょっとした努力を通じて、明らかに財務体質が悪い上場案件に投資して大切なお金が目減りするようなリスクを是非避けて欲しいと、私は切に願っている。

大木 将充


※ 当コーナーは、投資家の皆様への情報提供を目的としてファイブスター投信投資顧問株式会社が作成したものです。 当コーナーに掲載する記事の中には、当社設定投資信託をはじめ特定の金融商品を取り上げている場合がございますが、これらの金融商品の売買を推奨・不推奨するものではありません。投資に関する最終判断は、投資家の皆さまご自身でなさるようにお願い致します。また、当コーナーの掲載内容に基づいて行った投資行為の結果については、当社は何ら責任を負いません。
※ 当コーナーの内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
※ 当コーナーの内容に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。