No.0092

専門家の使い方に問題がある現在のコロナウィルス対策

東北大震災の直後に、多くの原子力専門家がテレビに出てきて、福島第一原発の原子炉がメルトダウンしていないとの見解を示していた。しかし、現実にはメルトダウンは起きていた。私は、この時以来、専門家と言われる人たちの考え方を鵜呑みにしないようにしている。
今回のコロナウィルス問題でも似たようなことが起きているように思える。専門家会議の人たちだ。
この人たち、コロナウィルスの感染者数の状況はまだ収束していないと「数値データを参考にして」現状を評価しながら、どうしたら緊急事態宣言の緩和ができるかという、いわゆる「出口基準」については、何ら「数値データを示さずに」、」緊急事態宣言の延長を促している。とても科学的な仕事に従事しているとは思えない言動だ。
また、彼らが感染状況の深刻度を判断する際に重要視している「実効再生産数」は、事後的にではあるが、4月10日の段階で全国0.7、東京0.5と、感染拡大の有無を判断する基準の1.0を大きく下回っていることが明らかになった。この数字だけ見ると、緊急事態宣言を発出する根拠は薄かったということになる。ましてや、4月7日に緊急事態宣言が発出されてからは、人の接触は急激に抑え込まれていることから、現在の状況は、ほぼ確実に4月10日の数字を下回っていると推測される。そうであれば、緊急事態宣言を延長する根拠は更に薄かったことになる。
さらに、私が大変強い憤りを感じるのは、専門家会議クラスター班の西浦博教授だ。本来であれば、社会生活において、こうした個人攻撃は避けるべきであろうが、政府が彼の意見をそのまま受け入れて接触8割削減という政策を打ち出していることから、名指しで論を展開しても差し支えなかろう。彼についての最大の問題は、接触8割削減だと感染が収まり、7割削減だと感染収束には不足という彼の分析結果について、そのロジックや計算結果の正しさが、外から全く判別できないという点だ。5月5日現在で、彼はいまだに、計算方法や計算ロジックを公表できていない。正しいかどうか一般の人たちがわからない考え方に基づいて、緊急事態宣言という経済を止める荒療治に政府が踏み込んでいる事実には、慄然とする。なぜ、この人の考え方を、誰かが責任をもってチェックしないのか?
もちろん、こうした専門家の意見は、不完全なものであっても、「参考程度に」採り入れることは有用だと思う。しかし、政策を決める権限のある政治家が、このような数字を鵜呑みにすることは、絶対にあってはならない。それを政策の柱として取り入れるなら、政治家の方々と、規制の対象者である一般の人々が、そのロジックを完全に理解できている必要がある。政治家は、専門家の言いなりになってはいけない。こうした専門家は、「経済の素人」なのだ。政治家は、専門家をうまく使わないといけない。しかし、今の状況は、政治家が専門家に使われている。それは大変危険なことだ。
私が政治家なら、専門家会議や西浦氏の打ち出している考え方自体を、そのまま政策に取り入れることは、致命的欠陥があると思われることから、絶対にしない。

大木 将充