大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネジャー経験を経て、14年より現職。


運用の本質は、最後は「気合と根性」
【No.0096】
2020.6.11
弊社の社長が元ボクサーだから言っているわけではないが、私は、運用は「無数の相手がいてノックアウトを食らうまで際限なく続くボクシングの試合」に似ていると思う。
うまくパンチが入り攻勢のときもあれば、殴られ続けマットに沈むこともある。防御をし続けていれば負けないが、勝てもしない。防御を尽くしている時にはパンチが来ず、攻撃に転じて防御が甘くなった時に限って不意打ちを食らう。
今年の2月から3月にかけて、世界的に株価が急落し、私の運用するファンドでも3月中旬に一時的に大幅な損失を食らった。これは、ボクシングで例えれば、決定的なパンチを嫌というほど浴び、3回くらいダウンしたような感覚だ。厳密には、肉体的にダメージを受けたわけではないが、精神的には立ち上がれないほどのショックを受け、それが肉体をじわじわと蝕んでいく感じである。特にこの3月は、米国マーケットが気になって眠れず、米国株の連日の暴落を見て、一瞬にして汗びっしょりになり、その後無理に寝ようとしても、今度は身体がどんどん冷えてきて身体の震えが止まらなくなった。今年の2月〜3月に近い場面は過去に何度か経験しているが、その度に思うのは、この仕事の過酷さだ。よくよく考えてみると、株式投資は未来予想にほかならず、そんなことが人間に簡単にできるわけがないのだ。簡単にできるわけがないことをやっているのだから、苦しまないわけがない。
それでは、この仕事で最も重要な要素は何か。それは、端的に言えば猛烈なパンチを浴び続けてダウンしても、10カウント以内に立ち上がる努力をすることだ。つまり、大幅な損失を計上して意気消沈しても、とにかく短時間で気持ちを奮い立たせて市場に立ち向かうことだ。
この仕事をやっていてつくづく思うのは、私に固有のことかもしれないが、0.5%とか1%くらいの負けを食らうと頭に血がのぼって冷静さを失うことが多いのだが、5%とか10%の大きな損失を被ると、逆に冷静な目で物事を見ることができるようになるということだ。それは、ある意味では諦めの境地でもあるため必ずしも良いことではないのだが、一方では、冷静な頭は非常に強力な武器になる。
今回の下げ局面でも、冷静な頭を利用し、意気消沈した気持ちを奮い起こし、「この損失をどうやって取り返そうか」という方向に気持ちを早期に切り替えることができた。つまり、致命的なダウンを喫した後に、何とか立ち直ることができたのだ。その原動力は、知見でも知識でも経験でもない。「気合と根性」である。
その結果として、今年の損失はおおむね取り返し、ファンドによっては年初来で大幅なプラスリターンを計上できているものもある。苦境は、「気合と根性」だけでは乗り切れない。しかし、「気合と根性」がないと乗り切れない。
もっとも、もし私が、ボクサーの井上尚哉さんくらい攻撃も防御も優れたファンドマネジャーであったら、こんなに何度もマットに沈む必要はなかった。私には、まだまだ研鑽が足りないと痛感する。

大木 将充


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