大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネジャー経験を経て、14年より現職。


コロナウィルス後の不動産需給を「東京ドームの二階席」から占う
【No.0098】
2020.7.10
「東京ドームの2階席」からプロ野球を見たことがある。まるで野球盤ゲームを見ているようで、雰囲気を楽しむ以外のメリットはまるで感じず、野球というゲーム自体を楽しむことは全くできなかった。それでも、全ての野球の試合が放映されているわけでない上に、野球を直に観戦するという何らかの価値は残ることから、その席を買う需要は存在している。
コロナウィルス後はどうなるか?
VRや5Gなどの手段の進展で、リモートでの楽しみ方が拡大するであろう。バックネット裏からの映像を楽しめることはもちろん、自分がピッチャーや打者の立場で試合を見られるようなことも増えるであろう。これにより、球場でのリアルの観戦の魅力度は、相対的に落ちることになる。しかし、人間の五感は複雑であるため、オンラインでその五感を球場で観戦するのと同じ程度に満たすことは不可能である。したがって、球場での観戦のニーズは一定数残る。三密を防ぐために、座席が間隔を空けて販売されることになるから、人気カードであれば座席単価の上昇要因にさえなるであろう。
さて、ここで冒頭の「東京ドームの2階席」に話を戻そう。この席は、球場の雰囲気は楽しめるが、選手を間近で見られない席であり、人間の五感を中途半端にしか満たせない。それは、上記のオンラインでの特等席や、バックネット裏席(リアルでの一番近い席)・貴賓席(試合を見ながら食事や会話を楽しめる)と比較したときに、特筆すべき訴求点に欠けていることから明らかであろう。そして、この東京ドームを、東京の通勤圏内の土地とみなすと、東京の地価がどうなるかを占う重要なヒントが浮かび上がってくる。少なくとも、二階席や立見席を求めたいと思う人が激減するはずだ。つまり、東京の中で、東京ドームの二階席や立見席に相当する場所は、買い手が激減するということだ。
具体的に言うと、球場で試合をしている選手を「オフィス」、バックネット裏の席、一塁側の席、外野席、二階席という塊を「街」と見たときに、価値の残る東京の土地は、「オフィス」へのアクセスが良い場所(徒歩圏、自転車通勤圏)、「街」自体に魅力がある場所(例えば球団本拠地の右翼外野席は、選手は近くで見られなくても、「応援の強烈な一体感が得られる場所」というメリットが残る)ということになろう。逆に、東京ドームの二階席に当たる土地は、厳しそうだ。具体的には、渋谷が満床ということで仕方なくIT企業が移転してきた五反田、ブランドが独り歩きしていたが街の魅力に欠ける田園調布のような場所かもしれない。
そう考えると、リモートワークができるからといって、都心から中途半端に離れた埼玉県の物件を買うのは、巨人ファンが巨人戦を東京ドームの隣接地でスクリーンを通じて観戦するようなもので、最も中途半端な愚策に思える。東京以外の場所でもいいと思うなら、軽井沢の方がはるかに良いと思われる。リモートワークの環境はどちらでも差はないし、週一とか月一の出勤なら新幹線が使えるし、街の魅力度も圧倒的に高いからだ。
ましてや、特段の訴求ポイントがない「郊外」なんて論外だろう。リモートワークができるからという理由はもっともだが、それだけで郊外に住むのは、それこそ住む場所を決めるのに仕事という条件から離れ切れていない想像力貧困の証左なのではないか。

大木 将充


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