大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネジャー経験を経て、14年より現職。


大統領選挙や首相交代が、「今年は」大きな株価変動要因にならないと考える理由
【No.0104】
2020.9.11
私が2010年にファンドマネジャーになった後、政治の変化が株価に大きな影響を与えたことが何度かあった。主なものとして、2013年の安倍政権誕生に伴うアベノミクスの株価大幅牽引、2016年6月のBREXIT(英国の欧州連合からの離脱)による株価急落、同年11月のトランプ大統領決定による株価急落と株価急騰が挙げられる。それらを勘案すると、今年は、8月28日に安倍首相の電撃的退任表明があり、11月には米国大統領選挙を控えることから、これまで以上に金融市場が政治イベントにより大きな変動を示す可能性は否定できない。一般論で言えば、今年年末までは、市場関係者は多大な緊張感に晒される可能性があろう。
しかし、私は、「今年に限っては」、安倍首相退陣も米国大統領選挙も、金融市場に大きな変化をもたらさないと考えている。その理由は、コロナウィルス問題の方が、そうした巨大イベントとの比較で見ても、現段階で、人類にとって遥かに大きな株価変動要因であるからだ。
これは、次のように考えるとわかりやすいだろう。1996年に、「インデペンデンス・デイ」という映画が公開された(ちなみに、これは、中身的には、アメリカが宇宙人に勝つというような安易な作りになっていて、私個人としてはつまらない映画の部類に入る)。ここでは、世界中が宇宙人からの攻撃を帯びて、言うまでもなく「宇宙人vs地球人」という構図になっているが、そこでは、大統領選挙のような「地球人同士の戦い」は脇に置かれ、全ての地球人が一致団結して宇宙人に立ち向かう。このような中では、共和党と民主党の理念の違いなど、無視しうる要因となる。
今回のコロナウィルスを、「インデペンデンス・デイ」の宇宙人と置き換えると、今年の世界の構図が良く見える。第一に、大統領選挙や首相交代よりも大きなイベントは一般的にはほとんどない中で、今年は珍しく、それらを超えるコロナウィルス問題という巨大な要因が今の世界を支配しているということだ。第二に、コロナウィルスという「人類」にとって共通の敵がはびこる世の中では、大統領選挙も首相選挙も、候補者の主張や公約が似通ることになり、どちらが勝ってもコロナウィルスという最大の問題に対するスタンスはほとんど変わらないことになる。
こうなると、運用者の立場からは、コロナウィルス問題に思考を集中した形での投資を行えば良いことになる。そして、これまでの世界各国のコロナウィルス対策を見る限り、政策はほとんど似通っている。つまり、現金給付にまで踏み込むほどの「大規模な財政政策」と、米国でもFRB(連邦準備制度理事会)が当面のゼロ金利維持を容認していることでわかる通りの「異次元金融緩和」が行われている。その中では、金利が上昇しない中でマネー量が拡大するから、理論的には通貨価値が下落する。通貨価値の下落は、マネーフローにより物価や資産価格上昇という形の副作用をもたらしうる中、債券はゼロ金利で魅力薄だから、それ以外のリスク資産にマネーが滲み出ていくことになる。そしてマネーの行き先の最大の有力候補は、魅力を失った債券に次ぐ有力な投資対象としての「株」ということになる。
以上の通り、現在は、株価が下がると予想すること自体に無理が出てくる珍しい状況にある。しかし、今回は、株価上昇の可能性を、もろ手を挙げて歓迎できない部分もある。それは、人間にとって、株価よりもはるかに重要性の高い「通貨」の価値の下落の反射効果として、株価が上がる可能性があるからだ。一般の方々には辛い展開となりそうだ。

大木 将充


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