大木レポート


筆者プロフィール
大木昌光(おおき まさみつ)
取締役運用部長兼チーフ・ポートフォリオ・マネジャー

89年日本興業銀行、95年マッキンゼー・アンド・カンパニ 、97年より大手外資系証券、投資運用会社でアナリスト、ファンドマネジャー経験を経て、14年より現職。


ヘッジファンドの運用方法が大きく変わる可能性
【No.0120】
2021.2.10
最近の米国市場における、「個人投資家VSヘッジファンド」の対決の構図は、要は、ヘッジファンドに空売りされている銘柄を、個人が買いの連帯で助けようという運動であった。これにより、一部ヘッジファンドは致命的なダメージを受けたと報道されている。
ところで、私自身もロングショート戦略(端的に言えばヘッジファンド)を運用している中で、他社のヘッジファンドを、ある意味で不思議に、ある意味ではすごいなという気持ちで、見ることがあった。例えば、マーケット・ニュートラル戦略というものがある。これは、個別株の買いと別の個別株の空売りを同金額だけ立てて、アルファ収益のみを狙う戦略である。この戦略は、理念的には、相場全体が上がっても下がっても、個別の銘柄が期待通りに動いてくれれば収益(アルファ収益)を得られるという建て付けになっている。しかし、私はこの戦略を取りたいと思ったことは一度もない。なぜなら、買いサイドと空売りサイドのテールリスクがバランスしないからだ。具体的に言うと、買いの場合の最大損失額は、投資金額である。しかし、空売りの場合の最大損失額は無限である。例えば、資産残高1億円のファンドで、ある銘柄を300万円空売りしたとしても、一般論としては違和感なく受け止められる。しかし、この銘柄が30倍に上昇するまで放置していると、空売り額は9000万円になり、損失は8700万円になる。この銘柄のみで、言い換えれば、ファンド残高の3%だけ空売りしただけで、ファンド資産の87%を失うのである。私は、今回のような問題が米国市場で起きる前から、このような最大損失額がバランスしないマーケット・ニュートラル戦略を、リスクの観点から「感覚的に」採用したいと思わなかったのだ。
ところで、弊社では、実はマーケット・ニュートラルに近い戦略のロングショート・ファンドが存在している。「なんだ、言っていることと違うではないか」と言われそうだが、他社のマーケット・ニュートラル・ファンドとは決定的な違いがある。それは、主に、TOPIXや日経平均株価と連動する「株価指数先物」を空売りしており、個別株は全く空売りできない形にしたり、やれるとしても限定的な形にしたりしているのである。株価指数が数日で何倍にもなることはないので、このようなやり方にすることで、空売り特有のテールリスクを最小化できる。仮に日本株が5%上昇して、買いサイドの個別銘柄投資のリターンが仮にゼロだったとしても、ファンド全体の損失は資産の5%である。それは軽い損失ではないが、リカバリーは十分可能な水準である。また、普通の相場であれば、日本株全体が5%上昇すれば、買いサイドの個別銘柄も相応に上昇する銘柄が多くなるので、実際の潜在損失ははるかに軽微になる確率が高いし、銘柄選択が良ければプラスリターンになることも多々あるのだ。さらに言えば、個別株と違って、株価指数先物は流動性が高いため、空売りポジションを構築したとしてもごく短時間で解消できるから、不測の事態が生じても十分に対応できる。
あくまで、私の予感ではあるが、これまで個別株の空売りを基礎としていたヘッジファンドが、ロングショート戦略をやめたり、続けるとしても空売りを個別株ではなく株価指数先物中心に行ったりする形に、変貌する可能性は十分にある。その場合のアルファ収益は、買いサイドからしか発生しないため、理論的には、最大損失額が縮減する代わりに、期待収益は小さくなるはずだ。
そして、繰り返しになるが、弊社のロングショート戦略は、従来と変わらない運用を継続できるから、今後も期待収益は不変である。

大木 将充


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