No.0003

消費者金融業者の強みと、「ナンパ」の理論

消費者金融業者のクレジットスコアリングシステムの凄さ

2006年1月13日のグレーゾーン金利収受の有効性を否定した最高裁判決までは、わが世の春を謳歌していた消費者金融業者。その判決までの業績好調の理由を、高金利で貸せたから当たり前だとか、追い貸しをして残高を増やしていたから、とかで片付ける論調が、当時はよく見られたものだ。
もちろん、そうした要素が消費者金融業者の成長の背景の一部であったことは言うまでもない。しかし、良く考えてみてほしい。消費者金融業者は、ふらりと店頭に現れて「金を貸してくれ」という風采の上がらないような人に対してでも、30分くらいで審査して、無担保で貸付しているのである。そのような人たちにたかだか29%程度の金利で貸して、簡単に儲かるはずはない。
その意味で、彼らの事業の根幹を支えている非常に重要な要素として、彼らの審査力を忘れてはならない。とりわけ、個々の業者が独自に作り上げたクレジット・スコアリング・システムは、かなりの高水準に達していたと筆者は認識している。
2000年代の前半に、海外でスコアリングシステムの構築を専門に手がける会社の人と話す機会があった。彼らは、欧米の大手金融業者にもシステムを提供しており、質の高いサービスを世界的に提供していた。しかし、彼らによれば、日本の消費者金融業者大手のアコム、プロミス、アイフルなどの大手業者については、彼らの商品・サービスの提供の余地がほとんどないくらいレベルが高いと、ある意味で諦めの境地を語っていた。

痛みなくして高度なシステム構築なし

ところで、精度の高いスコアリングシステムを構築するには、何が必要となるのか?そのためには、完済顧客(正常債権)のデータはもちろんとのこと、返済できなかった顧客(不良債権)に関するかなり詳細なデータも必要となるのである。つまり、返済できない顧客の属性を徹底的に調べ上げて、初めて貸せる客と貸せない客の区分けができるようになるのである。
このことについて、筆者はアナリスト時代に、ナンパを例に説明したことがある。筆者は、品行方正なので、街中でナンパなどしたことはないが(笑)、それに詳しい人間によると、色々な女性に声をかけて成功と失敗を繰り返していくと、次第に、ナンパがうまくいく女性のパターンが見えてくるとのことであった。これは、消費者金融業者のスコアリングシステム構築の際のデータ収集につながる部分がありそうだ。
それでは、日本の銀行は、なぜいつまでたっても小口無担保金融業を自力で展開できないのか?それは、先ほどのナンパの理論で言うと、もともとどう考えてもナンパが成功しそうな女性(そんな女性が存在するかはわからないが)にしか声をかけないからだ。このやり方だと、確かに失敗は少ないかもしれない。しかし、声をかければ成功したかもしれない層を最初から無視しているという意味での機会損失は免れない。このような機会損失を、消費者金融業者は、多大な貸倒れという痛みを蓄積する中で、極小化してきた。それが、彼らの過去の成長の礎になったと筆者は確信している。
そう考えていくと、銀行と消費者金融業者の審査力の差は30年位前から一向に縮まっていない。逆に、最近銀行は、中小企業向け貸出にさえ政府保証を積極的に求めるという形で、企業向け審査能力まで減退している感がある。となると、銀行が小口無担保ローンを展開しようと思えば、消費者金融業者などのノンバンクの審査力を借りざるをえない。ここに、消費者金融業者が復活する可能性が高いと筆者が考える鍵が潜んでいる。

大木昌光