大木杉村さん、お久しぶりです。この度は、対談企画をご快諾頂き、ありがとうございます。
杉村こちらこそ、久しぶりにお会いして対談できることを楽しみにしていました。
大木ドイツ証券の調査部で一緒に働いた後、杉村さんが衆議院選に立候補して当選され、あっという間に大出世された姿をテレビなどで拝見して、大変嬉しい気持ちでいました。こうして、ご当選後10年以上の時を経て、またご一緒する機会を頂けて、大変光栄に思っています。
杉村私も、「人生100年時代」に突入した現在において、個々の日本人が、資産形成をどのように行っていくべきかについて、これまで以上に真剣に考えていくべきだと思っています。今回の対談を通じて、何らかの鍵や方向性が得られたらと思います。
大木では、今回の対談では、「人生100年時代に向けた資産運用」というテーマを大きな柱として、資産運用に関する様々なテーマに関する議論を行っていきましょう。
杉村大木さんは、ドイツ証券で、ノンバンクセクターと銀行セクターのアナリストをされていましたよね?
大木そうです。杉村さんが2005年の衆院選で当選された頃は、ノンバンクセクターを主に担当していました。当時は、武富士、プロミス、アコム、アイフルといった4大消費者金融会社が健在で、商工ファンド、ロプロ(旧日栄)のような商工ローンの会社もあり、大変個性豊かな顔ぶれの揃ったセクターでした。その辺りのエピソードは、また後の対談のテーマにしたいと思います。
杉村今は、ファンドマネジャーをされているのですね。
大木はい。初めて運用の仕事に携わってから約8年になります。2014年に、ファイブスター投信投資顧問に入社して、今はいくつかの日本株ファンドを運用しています。
杉村対談の前に、御社ホームページを拝見しましたが、「MASAMITSU日本株戦略ファンド」のパフォーマンスは、かなり好調ですね。
大木ありがとうございます。2014年11月27日の運用開始後、4年が経過しましたが、お陰様で、MORNINGSTARの総合レーティングで5つ星を頂いています(2018年12月14日現在)。ちなみに、弊社名の「ファイブスター」も、5つ星レーティングを取れるファンドをたくさん世に出したいとの思いに由来しているので、その夢に一歩近づいた形になっています。
杉村ファンドマネジャーの仕事は、傍から見ると華やかに見えますが、実際はかなり大変なのでしょうね。
大木精神的にタフな仕事ですね。毎日が修行のような…(笑)。特に、2015年8月のチャイナショックや、2016年1月の日本銀行のマイナス金利導入、2016年11月のトランプ大統領の当選などを経て、株式市場が以前と比べて変容してしまった感じがあります。従来と同じやり方をしても、簡単には勝てないようなイメージです。
杉村そう言えば、2018年の株式市場は、2月に大幅下落した後に、株価が乱高下し、10月も再び大きな価格調整に見舞われるなど、特に運用環境が厳しい年のように思えたのですが?
大木その通りですね。株式市場全体が大きく変動したのみならず、これまでと異なる運用環境が目まぐるしく発生して、特に年後半は、運用に悩む日々の連続でした。ただ、1月が高値となって、その後徐々に株価が下がっていくという展開は概ね予想通りだったのです。年始の段階では、そのような考え方は少数派に属していて、強気の人が多く、2018年の高値として日経平均で27,000円とか30,000円を予想する人までいました。
杉村そもそも、年始の株価予想というのは、どの程度の確度で当てることができるのですか?
大木難しい質問ですが、株価が最終的にはファンダメンタルで決まることと、実体経済と株価の間に必ず何らかの乖離が生ずることを念頭に置いておけば、1年くらいの株価の方向性であれば大まかには見極めがつくと思っています。
杉村では、単刀直入に、2019年の日本株について、どのように予想しますか?
大木結論から言うと、当初は弱々しく神経質な動きが続き、日経平均株価が20,000円前後を行ったり来たりする可能性が高いと思います。その後、3月から5月頃が転換点になって株価がリバウンドし、最終的には年末に向けて24,000-25,000円くらいを目指す展開を予想します。
杉村日経平均株価20,000円前後の水準が続くと、その後の市場センチメントにもネガティブなインパクトを与えて、場合によっては、もっと下の水準を試す恐れも否定できないのでしょうか?
大木株価水準については、日経平均株価で語っていますが、根本的な考え方は、「下がってもTOPIXで1,400ポイント」ということです。これは、2018年度末のPBR1倍前後の水準に相当しますが、既に近いレベルまで株価が調整しております。重要なことは、これまでリーマンショックや東北大震災の時も、TOPIXでPBR 1倍を割る期間は長く続かなかったことから、リーマンショッククラスの危機が来ても下落の目途はPBR1倍前後ということです。実際には、来年にそうした危機が来ることは想定していないので、年前半に株価が下落しても、PBR1倍のTOPIX1,400ポイント程度を下値の目途としていいように考えています。これを日経平均株価に置き換えて考えると、19,000円前後ということになります。
杉村そうであれば、逆に言えば、最初の数か月間さえ我慢すれば、その後には明るい展開が待っているというシナリオでしょうか?
大木多少は明るさが見えるということではないでしょうか。3月から5月くらいが相場の転換点になると考える理由は3つあります。第一に、米中貿易摩擦の中の「関税問題」については年前半に何らかの進展が見られると予想されること、第二に景気サイクルが下を向き始めている米国経済がサイクル的に再度上を向く可能性があること、第三に今年に入って一貫して下落が続いているNANDやDRAMといった半導体の価格が、その頃に底打ちする可能性があること、です。
杉村高値で、24,000-25,000円というのは、2018年の高値とほぼ同じレベルですが、その水準に何か意味があるのですか?
大木その意味合いは、次の株価リバウンドの勢いが、2017年後半から2018年1月までの上昇の勢いと比べて、それほど強くないと思っていることです。現在の株安を伴う世界的成長率鈍化の段階も、リーマンショック後の景気拡大の継続と捉えられており、野球で言えばこの景気拡大は野球の7回か8回に相当するという表現も海外メディアでは見られています。そうであれば、次の株価リバウンドは、野球で言えば9回、つまり、もしかしたら、リーマンショック後の景気拡大の最終局面になる恐れがあるからです。
杉村ということは、2019年の株価上昇局面の後には、大きなショックが来る可能性も否定できないということですか?
大木それは、考えておく必要があると思いますね。それを考える上での基本的な構図は、3つあると思います。第一は、リーマンショックからの回復に向けて、各国が、マイナス金利にまで手を出して未曽有の金融緩和に着手し、財政政策も拡張しており、危機発生時の打ち手が限られていること、第二に政府も企業も個人も、金融緩和で思い切り借入を増やしていて、危機時の返済能力への懸念が高まっていくこと、第三は、アメリカファーストや移民排斥に見られるとおり、各国が自国の社会・経済重視の姿勢を強化することで、世界視点から見たときの経済合理性が崩れ、インフレや社会不安につながる恐れがあることです。
杉村よく、2020年の東京五輪の後に注意が必要という意見が見られますが、それはどう考えたらいいのでしょうか?
大木確かに東京五輪に向けて、建設需要が拡大したので、五輪後にその需要が一服することで、日本経済になにがしかの影響を与える可能性はあるでしょう。しかし、日本経済が将来にリーマンショック並のダメージを受けることがあるとしたら、そのような日本の内生的要因が震源となるよりは、世界的要因が原因となる可能性の方が高いと私は思っています。ただし、偶然かもしれませんが、大きなショックへの注意が必要なタイミングは、ちょうど東京五輪の頃に重なるようにも思います。
杉村それは怖いですね。でも、そう考えていくと、株式投資を行う上でも、色々と注意が必要になりますね。それでも、預金金利がほぼゼロである中、JTや日産自動車など配当利回りが4%以上ある銘柄がゴロゴロしています。REITの平均配当利回りも約4%もあります。そうすると、資産を形成していく上で、株式投資は欠かせない選択肢になると思えるのです。その点は、いかがでしょうか。
大木私も杉村さんのおっしゃる通りだと思います。確かに、株価は短期的には暴落する可能性があります。しかし、個別に見ると、全ての銘柄が下げるわけではありません。例えば、JTやキャノンの配当利回りは現在5%を超えておりますが、仮に日経平均株価が2-3割暴落したとしても、そうした高配当銘柄で減配リスクが低い銘柄は、株価が下がると配当利回りがどんどん上昇しますから、一定の水準より下に株価が下がるリスクは低いと思います。
杉村私も、高配当の優良企業への投資には、魅力があると感じております。そうした銘柄に分散投資することで、株価下落時の資産減少リスクがかなり軽減されると考えています。
大木その通りだと思います。また、配当以外の点を考えても、景気後退期や株式低迷期に株価が下がりにくい業種は確実にあります。リーマンショックの時も、建設関連の一角、電気工事会社、食品関連会社などの中には、値を保った銘柄がありました。こうしたセクターは、景気悪化時にでも、安定した業績を残せる銘柄群で構成されていて、注目に値します。
杉村それに、景気の如何に関わらず、業績を伸ばせる高成長銘柄もありますよね。
大木古い話で言えば、97年から99年頃まで、大手銀行の株価が金融危機で大幅下落しましたが、消費者金融業者は毎年着実に新規顧客を集め、貸倒も最小限に抑えて毎年10%前後の成長を続けていました。
杉村おもしろいですね。では、こんな感じで、「人生100年時代に向けた資産運用戦略」について、議論を深めていきましょう。