No.0018

アキバデビューを通じた雑感…女性パワー拡大の萌芽

世界の中でも東京のみで繁栄しうるサブカルチャー


東京圏の人口は3500万人程度ある。これだけの多くの人口が、特定箇所に集中している例は、世界のどこを探してもないであろう。
このことが、マニアックな趣味を持っている人や、数多くあるサブカルチャーにとって持つ意味は、極めて大きい。この3500万人のたった1%の人が嗜好するモノが、立派に数十万人のマーケットを持ちうることになるからだ。
筆者が、このことを痛感したのは、ブロッコリーのビジネスモデルを聞いたときである。「うたの☆プリンスさまっ♪」(これは女性向けだが)と名した音楽やゲームソフトが、様々な物語を繰り広げていく中で売れ続けていくという事態について、筆者は全く関心を持てないものの、「一つの経済事象」として無視し得ないことを実感した。それが、一企業のビジネスモデルの一翼を担うほどの役割を負っている事実を見ると、ファンドマネジャーとしても注視せざるをえなくなる。そして、このような事態が、東京という都市の魅力の一つの反映と考えると、この都市はやはり世界に誇れるアピールポイントが多いのではないかと思われ、主観が半分入り混じりながらも、満更でもない気持ちになる。この観点からは、AKB48を生み出した秋葉原という街の価値は、とりわけ無視しえないものがあると、つくづく感じるのである。

アキバデビューで感じたこと


そのような背景もあり、筆者は、何らかの形で、秋葉原の文化の一端に触れてみたいと思っていたが、なかなか機会がなかった。
その中で、先日、弊社をご担当頂いている大和証券の木村怜萌さんの案内で、「AKIHABARAバックステージpass」を訪れることができた。
なお、木村さんはまだ若いのに、さすが難関である大手証券会社の総合職の選考手続きを経てきただけあって、仕事にそつがなく、かなり優秀であると思っている。最近、お世辞を抜きにして、大手証券会社の新卒入社組の質向上は目覚しいものがある。筆者が社会人になった頃は、大手証券会社は、そのノルマの厳しさからあまり人気がなく、例えば東京大学から野村證券に行くような人は、好奇な目で見られていた。然るに、筆者が最近の野村證券で接する若手の多くは東大出身者であり、隔世の感がある。また、筆者は、2009年にバイサイドに転じて以来、以前にも増して様々な証券会社との付き合いが増え、日々の仕事で改めて証券会社のセールス担当の重要性を実感しているが、最近は、木村さんや、SMBC日興証券の松川浩美さんなど、筆者の周りを見回すだけでも、優秀な女性セールスの存在感が年々高まっていることが実感できる。筆者が外資系証券会社に在籍していたときも、国内外の株式担当女性セールスは優れていたが、そのレベルは年々上がっている感じがして、大変頼もしく思う。
話を「AKIHABARAバックステージpass」に戻そう。ここは、100人以上の「アイドルキャスト」が在籍していて、客がいわばプロデューサーとして、お気に入りのキャストを育成していくという仕組みになっている。料金は、一定の時間毎にチャージされ、その時間毎に最低ワンドリンクをオーダーする必要がある。
そこで、10代後半から20代前半の「アイドルキャスト」が客のオーダーを聞いたり、ステージで歌って踊る姿を見て、色々感じたことがあった。
第一に、キャストが人気を集めるためには、ただ綺麗で踊りが上手いだけでは足りず、一定レベル以上の社交性が要求されることだ。ここで培われる社交性というものは、ある意味で、(過去のレポートでも使った表現であるが)鉛筆一本売ったことがないエコノミストや、経営を左脳でしか理解していないMBA上がりの勘違い野郎なんかよりも、より実経済に合致したバランス感覚の獲得につながるのではないかと感じた。
第二に、彼女らの客前でのスピーチを聞いていると、同年代の女性と比べて、内容がしっかりしているとも感じた。そして、それは、彼女たちが、上位に上昇するためにどうしたらいいかを真剣に試行錯誤しているからこそであり、単純な学生生活では得られない、社会人的な体験を既に経ていることの証左とも考えられる。ある意味では、経営をシミュレーションでしか理解していないMBAかぶれの輩に比べても、はるかに大人のように思われる。
一方、大半の客は、当然のことながら男性ではあるのだが、若者から50代の親父まで幅広い層が顧客であることにややびっくりした。これも、東京の奥深さなのであろう。

「女性管理職30%」といった目標は不適切…女性がやりたいことを実現するインフラを整えることの方が重要では。


そんな中で、筆者が感じたのは、このような世界を受身で能天気に楽しんでいる世の男たちが増えていくにつれ、そうした男たちが「上から目線」で女性たちを応援しているうちに、いつの間にか、名実共に彼女らに追い抜かれていくという事態が、静かに進行しているのではないかということである。
ちなみに、世の中にある仕事の多くは、標準化が可能であり、そこでは日々の業務を確実に・正確に・スピーディーにこなすことが求められる。昔、ある上場企業の社長と話をしていたら、そのような標準化された仕事では、圧倒的に女性有利という話を聞いた。そのとき、「仮にそれが正しければ、男性に適した仕事とは一体何なのだろう」と考えざるをえなかった。現実に、証券会社のセールス担当という、一昔前であれば男性の仕事の代名詞であった仕事も、今や、前述の木村さんのような女性の台頭が著しく、もはや男性であることの優位性はほとんど見つからない。
一方で、子供を産めるのは女性の特権だし、次のAKB48を目指す事だって少なからずの支持者がいることを思えば立派な目標である。
それにもかかわらず、現在の日本の風潮は、「女性の管理職を30%まで増やす」とか「国家公務員採用の3割を女性にする」など、ある意味で女性を職業人として変に優遇する形になっている。それこそ、これまでの差別の裏返しではなかろうか。また、そんな政策で女性管理職を増やしても、実力で昇進した人も含めてまるで政策により役職を得たかのような陰口を叩かれる温床を作る上に、努力する女性とそうでない女性の「結果平等」を醸成するという意味での不公正を招き、それが真に評価されるべき女性の意欲減退を招く恐れがある。
それよりも、女性でも、仕事を極めたい人、子育てをしたい人、平凡な幸せを求めている人と、希望は様々なのだから、女性がやりたいことを自由にやれるインフラを整え、かつ、女性と男性が同一条件で競う際の公正性を担保するほうが、よほど適切のように思える。現在の税制改で、配偶者控除の廃止が検討されているが、これなどは、今後の日本の宝である子供を、自分の手で育てようとして職を離れる決意をしている女性の自由度を狭めているという意味で、特定の女性への差別の典型例といえ、女性の管理職の数値目標と対比して考えると、女性は働くべきだという「歪んだ信念」の押し付けとも捉えかねない。繰り返して言うが、今の女性が求めていることは、各女性が本当にやりたいことの支援であり、将来役職に就きたいというような特定層の支援にすりかえてはいけないと私は思う。また、欧米の女性優遇策について、いかにも過去の差別の裏返しのような人工的な臭いを感じ、何となく美しくなく、それを真似るのは日本的でないと感じるのは私だけだろうか。そんな目標を設定しなくても、例えば前述の木村さんの例でいえば、将来、「実力で」責任ある役職に就いている可能性は高い。
ところで、日本で女性の社会進出が阻まれてきた最大の責任は、「女性はかくあるべし」という押し付けがましい世界観を女性に押し付けてきた男性にある。そして、男性がそのようなことを続けてきた理由は、「女性は男性に劣る」と真面目に信じていた馬鹿者と、「女性が社会進出したら自分の立場が脅かされる」という正しい解釈だがエゴ丸出しの小心者野郎、などが多数を占めていたからであると思われる。そうであれば、政治は、不自然な数値目標設定ではなく、世の男性の「節穴ぶり」や「偏見」の是正から始めるべきであろう。
ただ、仮にそれらが是正されなくても、実はあまり心配ない。そのような無能な男性は、現在のような情報社会ではかなりの確率で淘汰されるし、それ以前の問題として、女性の力を軽視する者は女性を活用する者との比較で、組織の長として所定以上の成果を挙げることは難しくなるからだ。
以上より、筆者は、女性は黙っていても10年後に管理職の一定程度を占めるであろうと予測する。

大木昌光