No.0023

スマートとは思えない「スマートベータ」

スマートベータ?何がスマートなの?


スマートベータ….へええ。結果も出てないのに、もう「スマート」と呼ばれている。
筆者は完全に無視していたが、最近は「スマートベータ」という言葉を目にしない日がなく、さすがに意識せざるをえなくなった(しかし、それは「意識」しているというだけで、「無視」していることには変わりがない)。要は、これまでのインデックスが、特定市場に上場している全銘柄や、時価総額の高い銘柄を主に組入れてきたのに対し、「スマートベータ」は「利益や配当など独自の基準で選んだ「良い銘柄」で構成する指数(8月20日の日本経済新聞15面の定義に基づく)」とのこと。パッシブ運用で、コストを抑えて市場平均以上の成績を編み出すために作られた指数ということで、例としてJPX400等が挙げられている。
ところで、指数とは、本来は市場の実態をよりリアルに示すべく工夫された指標であると思われる。その意味で言えば、指数の構成銘柄選択には、一定の「ランダム性」や「分散」が求められるべきであろう。そうしないと、市場で特定の傾向が出てきたときに、市場全体の実態とかけ離れた数値が出てきてしまうからである。今回の「スマートベータ」は、そのランダム性や分散という指数が本来持つべき概念と両立しないように思われるが、いかがなものか?
もちろん、優良銘柄を選択することで、市場全体の上昇時には超過リターンが出て、逆に下落時には下落幅が小さくなる指標があれば、それは指標として十分に許容範囲内にあると思われる。しかし、ここにも大きな矛盾がある。というのも、株価上昇時にはそれにキャッチアップし、下落時には最小幅の下落に抑えるということ自体が、アクティブファンドが日々汗を流して求めている究極的な姿であるからだ。そのような「利益極大化・損失極小化」という目的を、何らかの投資指標(ROEや配当利回り等)で抽出しただけのインデックスを買うだけで実現しようというのは、あまりにも虫が良すぎるのではないだろうか?

好ましい銘柄は、日々変わる。だからアクティブ投資が必要なわけで、それをパッシブで実現しようとすること自体が市場への冒涜であろう

大木レポートのNo22でも書いたが、例えば今市場でもてはやされているROEという投資指標は、全く万能ではない。事業内容や事業環境などにより必要とされる最低所要自己資本を無視した議論がなされているからだ。最低所要自己資本に満たない会社のROEは、往々にして高くなる。したがって、筆者の予想では、高ROE銘柄の集合によるインデックスは、株価急落時には負けると思われる。
あるいは、ROEに関して言えば、筆者は財務安定性が高い低ROE銘柄のほうが、財務安定性の低い高ROE銘柄より有望なケースが多々あると思われる。なぜなら、前者のほうが後者より、有望なM&A実現や株主還元拡大の余地が大きいからだ。つまり、今の市場は、現時点での「ROEの多寡という断面図」に過度に注視し、そもそも資産価格により大きな影響を及ぼしうると思われる「ROEの変化率(特に上昇の可能性)」をないがしろにしているとも言えるのである。
このように考えていくと、当たり前のことに気づくと思うが、結局は、「良い株(一般的には株価上昇可能性が高いと一般に思われている株)」は、刻々と変わる。それを一つの指標を作って対応しようというのは、虫が良すぎる考えだ。だからアクティブファンドは、日々苦心しているのである。
これに対しては、必ずしもアクティブファンドがパッシブファンドに勝っていないとの、反論もありえよう。その通りだ。しかし、それは、「ランダムで」かつ「分散が効いた」インデックスは結構有用だという結論にすぎないと思われる。「スマートベータ」は、この「ランダム性」と「分散」を低下させるリスクがある。私が投資家で、どうしてもパッシブファンドを買わないといけないとしたら、JPX400連動より、TOPIX連動を選ぶであろう。どうせ、パッシブ運用をするなら、人の手垢があまりついていない方を選び、神の見えざる手に期待した方がよほどすっきりするからだ。
だいたい、最初から「スマート」などと名づけられているものに、本当にスマートなものは少ない。誰とは言わないが、「プロ経営者」という人たちに真のプロフェッショナルがいないのと同じ理屈である。

大木昌光