それにしても会社計画比で不振が目立つ日本の製造業…
中国経済の不振を始めとする世界経済減速で、製造業の業績が悪くなるのは、ある程度は仕方がないと思われる。IHI、三菱重工、川崎重工、ファナック、アルプス電気、日立、パナソニック、NEC、富士通、JFE、京セラ、NTN、日本板硝子、デンソーなどの日本の代表的なメーカーが、業績下方修正や業績大幅未達の決算を示し、もともと海外景気懸念で投資家から忌避されてきた事情が今決算で更に悪化する状況を呈している。 それにしても、世界経済が想定を超える速度で悪化しているとしても、為替影響が限定的な中で、これだけ多くの会社が中間決算からわずか3ヶ月というタイミングで、各社想定を下回る決算を出していることが、私にはどうも腑に落ちない。 私は、各社決算の中身を全て吟味しているわけではないので、あくまで仮説ではあるが、今回の製造業の業績不振の背景には、東芝の会計不正の問題があるのではないかと疑っている。東芝の会計不正を受けて、東芝を担当していた監査法人のみならず、それ以外の監査法人も、東芝と同様の問題の再発を恐れて、極めて保守的に企業の会計処理に目を通した結果、これまで認められてきた会計処理、特に利益計上と減損の基準に関する従来までの処理を認めなくなったというような事態は、一般論として十分に想定できるように思われる。 今回は、大手製造業に首をひねるような下方修正や業績未達が目立ったが、その大半がB to Bであり、かつ比較的長期にわたるプロジェクトを孕む企業が目立ったような気がするのは、私の気のせいであろうか。長期プロジェクトにおける利益計上基準は、どのような業態でも様々な考え方が存在するので、どの会計処理を採用するかによって利益は大きく変動する。あるいは、突然の減損が頻発したことも、監査法人の監査厳格化を背景として、設備の減損テストが厳格化されたと考えれば、合点がいく。トクヤマのように、従来から設備の減損処理のリスクを抱えていた企業が、なぜこの時期に、かつ、なぜ1000億円を超える大きな規模で、実行したのかということは、投資家としては是非知りたいところでる。今後はセルサイドアナリストの分析に期待したい。
仮に会計処理の厳格化が業績不振の背景にあるとすれば、来期業績には期待が持てる
いずれにせよ、利益計上や設備減損の基準を厳格化して、今期の利益水準が落ち込んだ部分が少なからずあるとすれば、その点についてだけ言えば、それら企業の来期に向けた利益計上のハードルは低くなるケースが多いように思われる。設備の思い切った減損処理を行えば減価償却費が減るし、長期プロジェクトの期間損益計上を保守的に行えば、プロジェクト全体の利益が不変であれば、プロジェクトの後半には利益が出やすくなることになる。
監査厳格化でもびくともしない「銀行セクター」と「建設セクター」はもっと見直されてしかるべきではなかろうか?
日銀によるマイナス金利導入で、株価下落のあおりを食らった銀行セクター。このセクターには、もう見るべき点はないのであろうか? 私は、そんなことはないと思っている。不良債権処理を含む会計処理が厳格であることが推測できるからだ。例えば、堅実経営で知られる静岡銀行は、好調な業績を背景に、毎期のように引当基準を厳格化して、少しでも引当を厚めにしようとしていた。これと同様なことは、有力大手地銀クラスであれば、どこも検討・実行していたはずだ。大手行もその例に漏れない。これに対しては、銀行が株式関連の投信を買った上で期中に中途解約し、その解約益で業務純益を嵩上げするといったことを日常茶飯事のように行ってきたことをどう考えるかという反論もありえよう。しかし、これは会計操作というよりは、含み益をどうせなら業務純益に入る形で顕在化させようとしたもので、含み益か顕在益かの違いはあれ、広い意味での利益をどう表現するかという問題にすぎない。そもそも、銀行セクターは90年代後半から2000年代前半まで、企業の存続に関わるほどの不良債権問題リスクに晒され、政府や衆人の環視の下で債務者区分の厳格化を進めてきた。特に、大手行については、公的資金まで受けたことから、その前提として政府による厳しいチェックを受けたことは想像に難くない。そう考えても、銀行は、他の業態の企業との比較で、10年以上も前から、より保守的な会計処理を迫られており、その副産物として、決算の信頼度が高くなった可能性は十分にあろう。 また、大成建設、大林建設などの大手建設セクターも、会計監査厳格化の流れの後でも、長期プロジェクト案件を抱えながら好調な業績を続けている。したがって、これら企業は、会計処理を究極まで厳格化しても利益が潤沢に出ているということになるのであろう。そうであれば、このセクターの強含みの業績も、本物と言えるであろう。 いずれにしろ、今回の決算については、個々の企業の分析も重要ではあるが、各企業の決算の底流に流れているものをあぶり出した上で、セクター間で比較検討し、その意味合いを考えるということが有用なのではないかと思われる。
大木昌光