日経ヴェリタスの人気アナリストランキング発表
3月20日、日経ヴェリタス誌上で、「第28回人気アナリストランキング(2016年版)」が発表された。これは、年一回のアナリストの通信簿のようなもので、各アナリストにとって、一般の人が想像する以上の意味を有する、最重要イベントである。高評価を得たアナリスト・証券会社の皆様、おめでとうございます。今回、惜しくも不本意な結果となったアナリスト・証券会社の皆様、来年に向けて頑張ってください。
ところで、私は、セルサイドアナリスト経験11年、バイサイドアナリスト経験1年、ファンドマネジャー経験6年を有し、セルサイドアナリスト時代は、このアナリストランキングで悲喜こもごもの感情を抱いたものだ。そこで、これからしばらく、この大木レポートで、今回のアナリストランキングに関する雑感をシリーズ化する形で述べてみたい。当然のことながら、そこでは多大なる主観が伴うことは避けられない。しかし、セルサイドアナリストを経験し、かつ、現在かなり多くのセルサイドアナリストのレポート・プレゼンテーションに接する機会がある私が、アナリストランキングについての考えを示すことは、一定の意味を有すると思える。
私自身のアナリストランキング初体験
私は、97年12月にソシエテジェネラル証券でセルサイドアナリストの仕事を開始し、98年2月頃にノンバンク・銀行セクターの専担となった。したがって、実質的に自分がランキングの評価対象となった最初の経験は、99年のアナリストランキングであった。当時は、ランキングが日経金融新聞に掲載されていたことから、3月に入ると毎週末の日経金融新聞が気になって仕方なかった。その中で、遂に99年のアナリストランキングが掲載された新聞が届き、ドキドキしながら紙面をめくったことを覚えている。
結果は…何度見ても私の名前は見つからなかった。現在と同様、10点以上獲得できればランキングに載るので、私は10点も獲得できなったことになる。これはショックだった。というのも、98年は日本の金融危機に当たる中、私は必死になって銀行セクターを調べ、思い切ったレポートも何本か出していた。誰かが見ていてくれているのではないか、と淡い期待も抱いていた。しかし、その甘い願望は、見事に打ち砕かれた。さらにショックだったのは、証券会社内のリサーチチームの中で、ランキングに入らなかったのは、私だけだったことだ。
その翌日か翌営業日か忘れたが、私は暗い気持ちで会社に向かい、暗い気持ちで仕事をしていた。そうしたら、当時の調査部長から呼び出された。私はてっきり、今回のランキングに関し警告でも受けるのかなと思って席に着いた。しかし、調査部長から、「君はこの1年よくやった。ランキングに入らなかったことは気にしないで頑張れ」といった趣旨の励ましをもらい、気持ちを立て直すことができた。
私はランキングに重きを置かなかったが、多くのアナリストにとっては極めて重要
その後、一旦クレジットの世界に飛び込んで、2001年から再度セルサイドアナリストに復帰し、ドイツ証券在籍中の2002年から2009年まで8年連続でアナリストランキングに載ることができた。
ちなみに、私は1位をとったことがない。1位になるには大変な努力が必要であり、恐らく1位になるアナリストの多くは、昼夜の区別なく、休日も犠牲にして働いておられる方が大半であると思われる。その中で、私は、アナリストの使命として、ランキング1位になることよりも、顧客である投資家への実のあるリサーチの提供に注力をした。具体的には、顧客への電話とかプレゼンを必要最小限に抑えつつ、アウトプットの最適化に全力を尽くし、確信度の高い結論を得られたときは思い切ったレポートを書いた。このようにして、「私の意見を聞かないと得をしないよ」という形を構築していった。例えば、02年のオリックス・レポート、06年の消費者金融業界レポートでは、明確な意思を込めて「SELL」レーティングのレポートを出し、恐らく99%の投資家から反発を食らったが、結果的には私の想定通りの結果となった。その意味では、「記録よりも記憶に残る仕事」に注力したと言えるかもしれない。ある同僚のセールス担当者からは「世界一リスクを取るアナリスト」と言われたが、そのリスクは外で見るほど危険なものではなく、当時の担当セクターの誰にも負けない分析を裏づけとしていた。また、会社の構成員であることの当然の帰結として、どのアナリストよりも会社の収益に貢献することを最優先にした働き方をした。
それらの必要経費として、一部の投資家からは「顧客にフレンドリーでない」というレッテルを貼られたりした。しかし、そうしたネガティブなフィードバックをしてくる投資家も含めた多くの投資家が、私の意見を無視できないような実績を積んでいった。 そうした行き方をすると、当然のことながら、アナリストランキングでの得票は一定以上伸びない。それでもいいと思っていたし、会社側もそうした働き方を支持してくれたと考えている。
しかし、多くのアナリストにとっては、一つでも上に行きたい、できれば1位になりたいという野望を持って仕事をしていると思われ、そのようにアナリストが日々ガチンコの勝負を繰り広げているからこそ、年一回のアナリストランキングから色々なことが読み取れるのである。
次回からは、2016年のアナリストランキングから私が感じたり考えたりしたことを、様々な切り口からお示ししたい。
大木昌光