ただでさえ年初辺りから世界経済の成長鈍化が始まっていたが、そこに米中貿易摩擦が圧し掛かってきた今年。その中で、市場関係者は、米中貿易摩擦の影響について、軽微だと言う人と、深刻だという人に分かれていた。私は、深刻だろうと受け止めていたが、その仮説が幸か不幸か、取材を通じて9月に実感できてしまった。と言うのも、8月後半から9月初旬くらいまでは、米中貿易摩擦の影響はほとんど出ていないという企業が大半だったが、中旬には少し投資センチメントが悪化してきたという声が聞こえ始め、後半になると投資を控える動きが顕在化してきたという説明が多くなっていったからだ。つまり、米中貿易摩擦は、3月から4月頃が出発点だったが、そこから約半年後の9月中盤から後半に、ついに企業業績に影響が及んできたのだ。
一方、証券アナリストの中には、1Q決算直後の8月から9月前半に取材を終えて、その後の期間を投資家回りに費やした人も少なからずいたと思う。そのような人たちは、9月中盤から後半の製造業の異変に気付かなかった可能性もあろう。その後、9月の後半に悪化が見られていた製造業の事業環境は、10月の初旬から中旬に更に悪化し、現在の中間決算発表の場で市場に動揺を与えるに至っている。9月中旬から企業への取材を行っていたアナリストや運用者が、製造業の業績悪化にどれだけ驚いているかは、想像に難くない。
このように、月を追うごとどころか、週を追うごとに企業の事業環境が悪化することは、大変珍しいケースである。リサーチ活動がパターン化していて、かつ、定点観測しかできない市場関係者には、このような動きは絶対に察知できない。私は、この動きを察知し、9月後半には企業の中間決算が芳しくない状況をほぼ予測できていた。それなのに、運用成績は振るわなかった。そこから言えることはただ一つ。実体経済を予測することは極めて難しいが、それを予測できたとしても相場を予測することはもっと難しい。しかし、実体経済を大まかにでも掴めていなかったら、運用状況はもっと悪くなっていた。その意味では、何らかの効果はあったと思われる。
大木 将充