昨年後半に、私が運用者として最も心理的恐怖を感じたことは、株式市場における「流動性」の減退であった。7月から8月頃に、まず中小型株について流動性の低下を感じた。多くの銘柄で売却に苦労するのみならず、自分のファンドの取引行為自体が個別銘柄の株価を上下に動かしているという印象を例年になく多く抱いた年であった。それが、次第に大型株にも波及し、10月以降は、通常であれば数分で取引を成立できる銘柄でも、板が薄くて慎重な執行が必要になる局面が散見された。
リーマンショックは、2007年の6月から7月頃が起点であったが、米国投資銀行のトレーディング収益のボラティリティが突如上昇して収益の安定性が失われた時期もその頃であった。そして、その背景には流動性の枯渇があった。その後、クレジットマーケットでサブプライム問題が意識され、高リスクのクレジット商品の買い需要が消滅して、金融市場が崩壊に向かっていったことは記憶に新しい。要は、金融危機の原因か結果かはさておき、流動性の枯渇は、金融危機の重要な要素なのである。
昨年の後半は、中小型株ファンドの成績低迷が目立ったが、それは、株式市場全般の低迷の中で、もともと流動性の低い中小型株の流動性が更に低下し、売りが売りを呼ぶ一方で買いが引っ込んだことで中小型株の株価が大幅に下落したことが一因であった。リーマンショックの時も、特定の外資系ファンドが流動性低下に直面したことで、解約に対応できず、その他のファンドの投資家を含めた多くの投資家が不安心理に煽られてファンドの解約に殺到したことで、ファンドが保有資産の売却に一斉に動いたという事態があった。
2019年は幸いにも株価のリバウンドで始まったが、中小型株を中心に流動性が十分に戻っていないという感覚がいまだに残っている。これは、今年の最大の懸念要因だ。
その意味で、今年は、私は、流動性に最大の注意を払った上での損益の極大化を目指していきたい。このスタンスは、流動性を多少犠牲にした投資を行い、結果的に株価上昇の波に乗るケースに比べてファンドの基準価額の上昇余地は小さくなる。しかし、投資信託については、リターンを上げることが求められていることは当然としても、それ以上に、株価下落と流動性枯渇の中でお客様からの大量解約に直面した時に、ファンド資産を柔軟に換金してお客様の求めるタイミングでお金を返すことも重要なミッションであると考えられる。リーマンショックから10年経過し、昨年後半は世界的に株価が大きな下落に見舞われ、アクティブファンドが運用に苦しむ状況が続いている。
そのように先の見えない環境下だからこそ、個人投資家の皆様には、投信を買うときには、解約したいときに換金できない可能性が高いファンドを選ばない努力を惜しまないで頂きたいと切に願う。
大木 将充