20年以上前に銀行に勤めていた時、夜9時より早く帰宅できたことはほとんどなかった。仕事が忙しかったかと聞かれれば確かに忙しかったが、先輩方が遅くまで残っているのでどうせ早く帰れないと諦めて、のんびりと仕事をしていた感が強い。もし早く帰ることが奨励されていて、周りの人たちも残業をしていなければ、恐らく夜6時か7時には帰ることができたであろう。その2~3時間の会社内での余計な時間が、日本人の生産性の低さの一端であったと思われる。
また、その2~3時間を他の用途に使っていたら、自己啓発、コンサート鑑賞、飲み会、読書などへの時間の有効活用を通じて、自分の社会人としての価値はもっと上がっていたはずである。また、私のそうした追加的な消費・投資活動で、本の著者、音楽家、居酒屋などの収入も更に上がっていたはずである。そう考えると、働き方改革の効果は、想定以上に幅広く日本経済全体に及ぶことが容易に推察される。
ところで、働き方改革によりネガティブな影響を受けるのは誰か?それは、残業代が減る個人と、サービス残業にあぐらをかいてきたブラック的企業である。前者は個人だけの影響にも見えるが、実は人材派遣業界で社員一人当たりの単価減という形で現れる。また、後者については、現在の業務量維持のために必要な人材量の増加と、人員引き留めのための単位労働コスト増で、ダブルの人件費増に見舞われるリスクがある。
東証一部上場企業の10-12月期業績は、営業収益が+3%程度と鈍化し、営業利益は10%以上の減益となっている。働き方改革の影響が、企業の生産・サービスのキャパシティの伸び悩み(売上伸び悩み)や、人件費の上昇(コスト増)という形で表れていることがわかる。そして、前者と後者の業績への影響は、様々な企業への取材をした限りでは、19/3期中から徐々に出始めている模様である。それが正しいとすれば、その影響が1年を通じてフルに顕在化するのは20/3期である。働き方改革の影響を大きく受けている企業は、正念場を迎える。このダイナミックな変化は、決して軽んじることはできない。
冒頭の話に戻ると、21時より遅くまで働いていた若い頃の私は、ただダラダラと仕事をしていたわけではなかった。定時の勤務時間終了後の夕方から、英語や会計、不動産業務などを1-2時間学び、その後に何食わぬ顔をして会社に戻って仕事を再開していた。その意味で、私は不完全ではあるが、時間を自己啓発につなげていた。それがその後の職業人生に多大な恩恵をもたらした。やはり自分の身は、自分で守るしかない。
大木 将充