トヨタやKDDIとの業務提携を通じ、AIビジネスを急拡大してきたアルベルト(3906)。3月27日に5万株(発行株式数の1.53%)・5億円を上限とする自社株買いを発表して株価が急騰した。
自社株買いについて、市場関係者は、各企業の置かれた状況を無視して、一律にポジティブと受け取る方向にある。しかし、自社株買いには、良いものと悪いものがあると私は考えている。そして、結論から申し上げると、私は今回のアルベルトの自社株買いには全く賛成できない。むしろ、悪い自社株買いの典型例だと考えている。なぜか?
言うまでもないが、自社株買いは、企業が自社の株価を割安と考える時に行われるべきである。その観点からは、同社が自社の株価を割安と考えていたのかもしれない。しかし、同社株のバリュエーションを見てみると、3月29日終値15,000円を基準とすると、PER158倍、PBR24倍である。まず、誰が見ても、割安とは言えない水準にある。特に、PBRが24倍もある(BPS627円)という点が本件の重要なポイントとなる。仮に同社が、公表値通り、5万株を5億円で買い付けたとしよう(一株10,000円)。その時、同社の発行株式数は1.53%しか減らないが、自己資本は24%も減少する(BPSも480円に低下する)。仮に、同社が今回の4倍の規模の自社株買いを行えば、株数は6%強しか減らないのに、自己資本はほぼゼロになるのである。この試算結果を見れば、この自社株買いの何かがおかしいということに、多くの人が気づくのではないか?
つまり、自社株買いは、高PBRの会社が行う場合には、効果は極めて限定的で、ただでさえ高いバリュエーションを更に引き上げてしまうリスクを孕んでいるのである。さらに厳密に申し上げると、PBR1倍を超える会社が自社株買いを行うと、必ずBPSは減少する。そうした点を念頭に置き、他の効果も併せ考えた上で、自社株買いの総合的効果については慎重に検討される必要がある。一方、ここでは事例は示さないが、PBRが1倍を割っている会社の自社株買いは、BPSを引き上げるという意味で、極めて効果が高いと評価される。
このように、自社株買いは、適切な場合とそうでない場合があると考えられるが、冒頭に述べた通り、それにもかかわらず、自社株買いを単純にポジティブと評価する人がプロの市場関係者の中にも散見される。クオリティが疑われる嘆かわしい事態であると言わざるをえない。 なお、AIに今回の件を学習させると、「自社株買い発表による株価上昇という結果」のみを参照するので、株価に好影響を与えるポジティブ材料としか判断できないと推測される。それは、AIの限界の一端を示すかもしれない。
大木 将充