私たち世代は、日本史の教科書の最後の部分で、第二次世界大戦後の歴史をほんの少しだけ学んだ。その中で、私が印象的だったのは、戦後に経済的に苦境に陥った日本が、朝鮮戦争の「特需」を通じて、経済的に復活する一歩を踏み出したということだ。朝鮮半島を舞台に、米国、中国、ソ連が関わる形で行われた戦争が、朝鮮半島にどれだけの損害や悲しみをもたらしたかは想像に難くない。しかし、朝鮮半島の目と鼻の先にある日本は、戦禍を被らず、専ら戦争の特需に伴うメリットを享受できたのである。
翻って、現在は米中間で貿易戦争が勃発している。その中で、ファーウェイ問題に代表されるように、中国の大企業が標的となる形で、中国の個別企業にダメージが広がりつつある。そうした環境下で、世界的に株価が下落することは仕方がないかもしれない。しかし、上記の朝鮮戦争は似て非なるものとしても、世界の需要に大きな変化がないとしたら、グローバルプレイヤーの一角である中国企業がダメージを受けるのであれば、世界市場を前提にすると、日本企業に「漁夫の利」的なチャンスが生じてもおかしくはなかろう。そうであれば、米中貿易戦争は、理論的には日本企業にとって一方的ネガティブ要因ではないはずだ。
しかし、そのように発想を変えて考えてみても、やはりポジティブ要因があまり浮かんでこない。私は、その理由の一端は、日本企業が完成品メーカーの立場を失い、世界に部品を調達する下請企業に成り下がったからではないかと考えている。
20-30年前を思い起こすと、日本は、自動車、パソコン、携帯電話、オーディオ、テレビ、白物家電など枚挙に暇がないほどの多くの完成品のトップメーカーを多数擁していた。仮に、この状態が現在まで続いていれば、現在の米中摩擦で、多くの日本のトップ企業は中国企業のシェアを奪う形で業績を維持向上でき、株価も堅調に推移していたのではないか。しかし、現在の日本の代表的メーカーで、現在も完成品メーカーとしての揺るがぬ地位を維持しているのはトヨタを始めとする自動車メーカーと一部の機械メーカーくらいで、多くの日本を代表する優良企業、例えば、日本電産、村田製作所、TDK、安川電機といった会社は部品企業ばかりなのである。90年代後半まで世界をリードしたソニーでさえ、主力のテレビや携帯電話といった完成品は勢いを失い、PC事業は売却し、現在の成長事業はセンサーという部品になっている。ゲーム機では勢力を維持しているが、Google等のグローバル企業の参入を目前にして、リスクが高まっている。
テレビの歴史を見てもわかる通り、付加価値の源泉は、完成品から部品にシフトしており、日本企業の部品メーカー化自体は戦略的に間違いではない。しかし、その場合には、お客である完成品メーカーの動向に業績が左右されることは必然となる。つまり、業績変動の他律性が高まるのだ。米中貿易摩擦再燃後の5月のエレキ関連企業の株価の低迷は、そのことを示しているように思う。そう考えると、完成品メーカーとして依然として世界に強い存在感を示しているトヨタという会社は、やはり凄いと考えざるをえない。
なお、業態は違うが、世界の人々を「完成品」の性能で魅了し、確固たる「ブランド」を構築しつつあるファーストリテイリングも、日本株での中で別格の色彩を放っている。小売セクターで、同社株価が独り勝ちになっているのも、十分に肯ける。
大木 将充