アベノミクスの成功の背景は2つあると思う。
一つは、民主党政権の終焉による心理的解放感、もう一つは大規模金融緩和による円安を通じた景気回復である。後者の理論的背景には、リフレ政策があったと思われ、それが奏功したと考えている人も少なからず存在すると思われる。しかし、日銀の大規模金融緩和それ自体が景気回復につながったというよりは、金融緩和による円安が日本経済を良くしたと考えるのが自然だと思われる。現に、2016年にマイナス金利を導入した後の金融政策は、不動産業向け貸出を除けば、融資増加につながらず、逆に米国トランプ政権によるドル高牽制によって、目に見えた効果が見えなくなっている。
つまり、どんなにリフレ政策を継続しても、円安につながらなければ経済浮揚の効果は限定的であったと総括できる。その中で、リフレ政策が、経済の血液を担う銀行の収益悪化をもたらしたことは確実である。つまり、自国通貨安をもたらさないリフレ策の効果は、ほとんどなかったということになる。リフレ政策は、贔屓目に見ても、成功したとは言えないのだ。
その中で、現代貨幣理論(MMT)という新たな考え方がまた出てきた。その骨子は、「インフレ率が高まらなければ、政府は自国通貨建ての負債をどんどん増やして歳出を拡大し続けても構わない」というものと理解している。一見するだけで、眉唾に思える摩訶不思議な考え方だ。 話は脱線するが、私はこれまで、アナリスト経験も含めて株式市場を20年以上見てきたが、その中で、「感覚的に」違和感を覚える企業の戦略や経済政策については、8-9割の確率で、その違和感が正しかったという実感を持っている。今回も、そのような違和感を禁じ得ない。
もう少し理論的に考えると、政府が負債を増やして歳出拡大することは、「一般論として」インフレ要因であることは、経済学的に否定しようがないであろう。このように、一般論としてインフレを誘発する政府債務増加・歳出拡大について、インフレ率が高まらなければどんどんやるべきだという考えは、論理的に自己矛盾ではないかと思えるのだ。例えば、それは、「太らないなら、食事はどんなにたくさん食べても大丈夫だ」という考えに似ていないか?爆食が肥満につながることを考えれば、これがいかに馬鹿げた考えかは、言うまでもなかろう。
また、仮にインフレ率が高まるなどの弊害が生じたら、増税で税収を上げればいいと考えているのであろうが、その時には政府支出を拡大できない中で民間需要が間違いなく減るから、経済は大打撃となる。「あとは野となれ…」的な政策に思えるのは、私だけであろうか? 効かない経済政策は、リフレ政策で十分だ。
大木 将充