米国の長短金利の逆転、いわゆる逆イールドが出現した8月末頃、これが景気後退のサインとして騒がれていた。確かに、これまでは、逆イールド出現の後に、株価の大幅調整が起きていた。「歴史に学ぶ、歴史は繰り返す」という重要な教訓の点から、その事象が注目を浴び、警戒感の台頭を促しても仕方がないと思われる。
ところで、私は「歴史に学ぶ」という姿勢を重視しながらも、それ以上に、「過去と全く同じことは起こらない、現在と将来は常に新しい」という考えを強く意識している。
「過去と全く同じことは起こらない」という考え方から今回の逆イールドを見つめると、少なくとも過去と違う点が2つあることに気づく。第一に、これまでの逆イールドは全て金利上昇局面で生じているが、今回は金利低下局面で生じたこと、第二に、世界の投資適格債の3割がマイナス金利に沈んだことから窺えるように、マイナス金利の常態化という中で発生したこと、である。
この2つは、極めて重要なポイントであると思われる。と言うのも、第一に、これまでの逆イールド局面では、金利上昇が景気を冷やしたという図式が見て取れるという意味で、金融政策が市場や景気に逆らう形になっていたが、今回は、金融当局が既に景気に警戒感をもって金融緩和に動いているという意味で、金融政策が市場と景気に添った構図になっているということ。第二に、マイナス金利という、常識的に考えたら、債券を満期まで保有して損をするという中で、債券が買われることの合理性が今一歩良くわからないこと。
この2つを併せて考えると、米中摩擦の過度の心配で債券が買われるのは仕方がないとしても、マイナス金利に突入しても買われた部分は、何らかの理論的整理が必要で、場合によっては、後世において、明らかにおかしい投資行動として、オランダのチューリップバブルや、日本の80年代の不動産バブルに並び称される可能性さえ否定できないように思われる。
そう考えると、今回の事象は、「債券バブル」の可能性も十分にあり、そうであれば、その結末は、債券価格の急落ということになる。その金が少しでも株式市場になだれ込めば、その株価へのポジティブインパクトは甚大になる。私は、そう考えて、9月初めに株式のポジションを強気に転じさせた。 それが正しいかどうかはわからない。ただし、金融業界の参加者が、あまりにも過去の流れに気を取られすぎ、正常な判断に曇りが生じているような気がする。それは、市場参加者が、今現在の動向を見つめる自分の眼力に自信が持てていない証左であろう。こうした考えに染まって運用することは、横断歩道の信号を見ず、隣のスマホを持った人が歩きだしたからそれに倣って歩き出すのと同じくらい、危険だと考える。
大木 将充