No.0073

各国金融政策と仮想通貨需要の増大

米国のトランプ大統領がドル安志向を強めているのみならず、世界的に金融緩和の嵐となっている。米中貿易摩擦が世界を不安感で覆い、経済ファンダメンタルが低迷する中、各国が少しでも自国経済を改善しようと、金融緩和に動いているのはわかる。
ただし、金融緩和の潜在的目的として、本来は中央銀行が政策目標としていない「為替」を動かすことに金融当局者の目が向いているような印象を抱く。つまり、各国とも、自国通貨安をもたらしうる政策に一生懸命になっているように見えるのだ。
ところで、ある評論家が、2013年頃からの日本のインバウンド需要急増は、円安になったからに他ならないという趣旨の意見を寄せていると聞いた。要は、専ら日本のモノやサービスの価格の相対的低下が、外国人の需要増をもたらしたという考えだ。その考え方は、傾聴に値すると思う。
そして、円安の経済浮揚効果ばかりスポットライトが浴びているが、大半の日本人は日本円や円ベースの資産を多く有するので、円安で日本人のグローバルで見た購買力は落ちたことになる。そして、現在は、概ねどの国も、自国通貨安を志向しているように思える。そうであれば、日本人のみならず、多くの国の国民にとって、自国通貨建て資産の下落をもたらす政策が行われていることになる。
その中で、仮想通貨が世の中に出始めている。仮想通貨の実体や、その根源的価値については、現在でも世界中で侃々諤々の議論が行われている。しかし、仮想通貨の真の価値は、仮想通貨自体を見つめていてもわからないように思う。仮想通貨の競合商品と言える各国通貨が、各国当局によって価値を落とす方向に向けられていることと合わせて考えるべきであろう。各国通貨は、広義では各国の負債であり、その価値が将来的に減じられるとすれば、通貨の保有者(債権者)の合理的行動は、自国通貨を手放すことになる。その場合、通貨を手放して、どの資産に変えるかという問題が発生するが、そのような環境下で仮想通貨が登場してきたというタイミングは、注目すべきだと思う。
そう考えると、各国政府が、自国通貨の切り下げ競争に動きながら、仮想通貨の芽をつぶすような言動を取るとすれば、それは我田引水的行為との誹りを免れなくなる。

大木 将充