2020年は、年始から、米国とイランの対立から始まり、1月中旬には新型肺炎が蔓延するという形で、2019年には予想できなかったイベントリスクが世界の金融市場を覆う形になっている。米中摩擦のみに配慮すれば良かった2019年との比較でも、いきなり年始から運用環境の難易度が高まった印象だ。現に、私の運用する日本株ファンドは、概して1月最終週にリターンを乱す形になった。
現在の運用環境においては、この新型肺炎に対し、どのような運用方針で対処するかを決めることが重要であるが、ことは簡単ではない。こうしたエピデミックリスクの予測は、考えるファクターの可変度が大きすぎるため、不可能に近いと思えるからだ。実際に私も、2月当初は、どのように運用すべきか非常に悩んでいた。
色々と考えた結果、推測できる部分から、ロジックを固めることにした。
まず、製造業への影響度の観点から、2019年に市場を悩ませた米中貿易摩擦と比較すると、新型肺炎が「工場の休止」であることに対し、米中摩擦は企業に「生産拠点の最適化」を迫る。前者の影響は短期的だが、後者においては中長期的な固定費増加につながる。その意味では、後者の影響の方がはるかに大きいと思われるため、昨年8月の年初来安値水準である日経平均株価2万円割れはなかろうとまず考えた。
次に、新型肺炎が最大経済を誇る米国に与える影響については、中国人によるインバウンド消費が無視できるほど小さい上に、米中摩擦の影響で既に米国企業が中国以外に拠点を移す動きを進めていたので、中国企業の生産休止の影響は極めて限定的であると考えられる。
それ以外にも、いくつかのファクターを考えた結果、新型肺炎で弱含んだ現在の相場に対しては、いつでもスタンス変更できる流動性を備えた上で、相応の強気スタンスで臨むべきだと考えるに至っている。それが正しいかどうかは、まだわからない。しかし、運用においては、ある程度のロジックで根拠を固めた上で方針を決めると、多少の市場のブレに惑わされない運用が可能になる。なお、テクニカル分析や、「過去の病原菌リスクは結果的に相場に大きな影響を与えない」といった経験則は、根拠としては弱すぎて、運用現場では依拠できないことを申し添えておきたい。
大木 将充