2020年の株式市場の最大のトピックは、マザーズ市場の躍進であろう。3月末から9月末にかけての上昇率は、なんと97.8%!コロナ問題で急落した3月の段階で、この急騰を予言できた人はほとんどいないであろう。私は、4月前半に、米国での経済対策の規模の大きさと対応の早さに直面して、日経平均株価が昨年末水準に近い23000円前後に戻る可能性を意識して運用を行ってきたが、マザーズ市場のこれほどまでの躍進は全くの想定外であった。
そのマザーズ市場が、10月は4.5%下げた。特に、10月14日の年初来高値の水準からは、14.2%も下げたことは特筆される。同期間でのTOPIXが-3.9%、日経平均株価-2.7%との比較で見ても、10月14日を境にトレンド変換的な動きが生じたことが見て取れる。更に言えば、TOPIXグロースの年初来高値は9月29日であり、9月末の段階でトレンド変換の萌芽が見えていたのかもしれない。これが、今後数か月を見渡した時のトレンド変換点だったとすると、ファンドマネジャーの立場から、株価の行き過ぎを認識できていたかと聞かれたら、私は「YES」と答える。
では、何で感じていたかと言えば、第一に、マザーズ市場を中心とする中小型株で、PER(株価収益率)が数百倍に達したり、PERで評価できないからPSR(株価売上高倍率)で評価されたりする銘柄が、続出していたことだ。私は、高成長株なら、PERが100倍程度なら、十分買えると考えている。なぜなら、そのような株については、30%成長が3年続けば3年後のPERは45倍に、5年継続で5年後のPERは26倍となるという形で、株価の正当化が可能だからだ。しかし、PERが500倍であると、50%成長が5年続いても5年後PERは65倍と高くなるし、そもそもの問題として、現在のように変化が激しい時代に50%成長を5年続けることは至難の業だからだ。ましてや、PSRという指標は、投資指標として、理論的説明が不可能なのだ。それが、公然と当たり前のように言われ始めたことを見て、中小型株市場での株価の行き過ぎの兆候を感じていた。
第二に、逆に、バリュー株と言われる株価の、安すぎる株価に疑問を持っていた。例えば、配当利回りで見ると、11月2日現在で、三菱UFJフィナンシャルグループで5.9%、三井住友フィナンシャルグループで6.4%に達している。フィンテックの台頭で、銀行業態への失望や不安が高まったとは言っても、コロナ問題で、大企業や中小企業を問わず多くの企業が銀行に殺到して借入を要請したことを見ても、銀行業界は人々の最後の砦としての存在感を維持している。その点は、航空業界や外食業態との大きな差であろう。それなのに、メガバンクの株価は、日本の株式市場で高配当利回りを競うほどの低い水準に留まっている。以上を見渡した上で、私は、以下のように結論づけた。
「日本の株式市場は、コロナ問題というフィルターを通じて、グロース株・バリュー株とも、4-5年後の株価を付けにいってしまった」しかも、4-5年後とは言っても、それは4-5年後の正確な「客観的未来」ではなく、4-5年後に起こるであろうと投資家が予想する「主観的未来」である。主観的未来は、トレンドができると、往々にして、客観的未来をオーバーシュートする。この状態のピークが、9月末から10月中旬にかけて到来したと私は見ている。それが正しければ、株価は、まずは、「オーバーシュートした主観的水準」から「客観的水準」に戻り、次に、「4-5年後の株価」からせいぜい「2-3年後の適正株価」に戻るであろう。その中で、株価が急騰した中小型株は下がり、低迷したバリュー株は上がることになるであろう。そして、これまでの動きが極端であったことから、株価の巻き戻しも凄い規模で起こると覚悟せざるをえない。なお、そうは言っても、この株価の動きに置いてきぼりを食らうセクターも出てこよう。その代表格が、空運、鉄道であろう。共通項は、これらのセクターが、「人を」動かしてきたことだ。今後の産業のトレンドは、「人に」ものが動くことになると思うからだ。
大木 将充