先月、ソニーのPlaystation5の価格戦略への失望を述べたが、それのみならず、私は世界的に、ソフトウェアとの比較でハードウェアがあまりにも軽視されすぎていると考えている。注目度合いが高い「AI」(人工知能)を例にとってみよう。現在のようにAIが隆盛となった背景には、3つの条件が整ったことがある。
第一に大量のビッグデータの取得が可能となったこと。第二にビッグデータ分析を行うためのアルゴリズムが発展したこと。そして、第三がハードウェアの発達である。これにより、大量データの高速処理が可能となったのだ。多くの人は、この第三の要素を軽視しているように思う。ちなみに、当ファンドは私が中心になって開発したのだが、AI・ビッグデータを活用した日本初の日本株公募投信である。このファンドの提携先である株式会社Link-Uは、電子書籍や動画配信などの事業を展開する会社を裏から支えて、コンテンツ配信の運用・保守業務を行う。そして、彼らの強みは、AIを活用したアプリケーションの開発のみならず、配信に最適なサーバーを独自に設計・開発する点にある。つまり、ネット配信の最適ソリューションは、ソフトウェアの開発のみでは成り立たず、「ソフトウェア+ハードウェア」の最適な組み合わせから生み出されることがわかる。
最近では、クラウドコンピューティングが急速な進展を見せているが、クラウドを補ったり、場合によっては代替する手段としてのエッジコンピューティングというソリューションが台頭しつつある。その代表的な例は、各種情報を、遠隔にあるクラウドサーバーではなく、スマホや専用機器のような電気デバイスで処理するやり方である。クラウド処理する場合と比べると、低遅延の防止、通信コスト削減、セキュリティ強化といった効果を期待できる。最近上場したニューラルポケットは、サイネージ広告でこの技術を使い、道行く人々に対し各々の人に最適な情報や広告を表示している。
再び、ゲーム業界に戻ってみよう。2019年にGoogleが「STADIA」というプラットフォームを通じてゲーム業界に参入してきた時、世界のゲーム業界は激震に見舞われた。これは、要は、特定のゲーム機を購入しなくても、スマホやタブレットがあれば、世界中のゲームを定額料金で楽しめるという構造である。これにより、専用ゲーム機を通じてゲーム基盤を構築してきたソニーと任天堂に対する悪影響が懸念されたものだ。しかし、ふたを開けてみると、任天堂のSWITCHとソニーのPlaystation5は世界中で売れまくっている。
この理由は色々考えられるが、私が識者と議論した結果として思うのは、ゲーム機本体の魅力もさることながら、コントローラーにもその秘訣があるのではないかということだ。コントローラーは、方向指示やアイテム使用などに加え、その振動などを通じてプレーヤーにあたかも画面の世界に自分が存在するかのような感覚をもたらす。こう考えていくと、ゲーム機やコントローラーというハードの重要性が理解できるであろう。任天堂のSWITCHとソニーのPlaystation5の凄い売れ行きは、これからの世界経済で、「ハード軽視・ソフト重視」の流れが変わるきっかけとなるような予感がする。
大木 将充