現在は、世界的に、コロナウイルスによる経済の落ち込みから這い上がる過程にあるが、まだ完全にコロナ・ショック前に復帰したとは言い難い。しかし、最近の日本経済新聞の商品市況欄を見ると、値上げ見出しのオンパレードである。
例えば、4月23日は、「炭素繊維4年ぶり値上げ」「中古マンション3.3%高」「JAL・ANA燃油分上乗せ」「薄鋼板値上げ」「米松製材品さらに値上げ」「鋼管、来月1万円値上げ」といった幅広いインフレを窺わせる見出しに溢れていた。コモディティを見ても、石油、鉄鉱石、アルミ、銅、トウモロコシ、木材、豚肉などは、年初来で20%以上の上昇となっている。
この背景について、多くの人は、コロナ対策としての各国の大盤振る舞い的な財政金融政策の結果と考えていると思われる。それは、ある程度は正しいであろう。しかし、私は、それと同等かそれ以上に重要な要素があると考えている。「コロナを境にした脱炭素や三密回避の形での生活様式の変化」つまり「急速に起きたパラダイム・シフト」である。例えば、広いスペースを求めた郊外志向が持ち家需要を拡大させて木材や塩ビの価格を上げ、再生エネルギー需要の高まりで銅などの素材ニーズを高めると共に発電コストが嵩んで電力料金引き上げの契機になり、需要が減らないのに脱炭素の観点から悪者扱いにされる石油は、供給が制約される形で価格が上がる。
コロナ・ショック後は、このような形で、これまでよりも需要が拡大したり、需要が減らないのに供給が制約されたりする領域が増えていると考えられる。そうした動きが、幅広い領域で原材料価格の上昇と、中間財・最終製品への価格転嫁につながっているのであろう。
仮に私の見方が正しければ、バブル崩壊後の日本や、リーマンショック後の欧米で、どんなに金融緩和を尽くしても上昇しなかった物価が、金融緩和とは別の理由で上昇基調に入った可能性がある。しかも、生活様式の変化はまだ始まったばかりだから、それを理由とする今回のインフレはある程度の期間は継続する息の長いものになる可能性がある。特に、今回は、世界経済が回復途上にあり、これからワクチン接種の進展などで経済活動が更に活発化するというインフレ要因が加わる。したがって、「生活様式の変化+コロナ・ショック後の経済復活」という二重の意味での「インフレを伴った経済活況」につながる可能性がある。これは、インフレヘッジ機能としての株の優位性を高めることになろう。
ただ、リスクファクターも指摘しておきたい。上記の論理展開を別の角度から見ると、現在の物価上昇が金融緩和との相関が薄い中で起こったとすれば、今後インフレ率が更に高まった後に各国政府が金利引き上げに動いたとしても制御できないリスクを孕むことになる。これは、我々が久しぶりに耳にする「スタグフレーション」につながりうる。ここまで来ると、一般市民の人たちは、1970年代の日本人と同様に、継続的物価上昇下での生活防衛に追われ、株価も上がりにくくなるかもしれない。ここまで考えないといけないくらいに、我々の生活環境が激変していることを、我々は念頭に置くべきだ。
大木 将充