No.0140

ファンド運用に際しての「技術」を超えた「気合と根性」の重要性について

 今年の7月末から8月中旬にかけての、一部銘柄の決算後の株価急落や、中小型株・リオープニング関連銘柄の弱さは、私にとって想像を超える厳しさだった。もともと、決算発表が一通り終わる直前の4月、7月、10月、1月の後半は、投資家の様子見姿勢が強まって取引が細る上に、8月は世界的に夏休みシーズンで決算後でも取引が細りがちになる。したがって、7月後半から8月後半にかけては、流動性低下により相場全体も個別株も方向感が予想しづらくなる。そのことは十分にわきまえていたはずだが、今年は相対的な日本株不人気の色彩の強まりと、日本株で時価総額最大のトヨタの半導体不足による減産報道も加わり、大変厳しい状況に陥った。1週間くらい運用の調子が悪化することは良くあることで、その場合の相応の対処は可能だが、これが今回のように1か月近く続くと、さすがに精神が蝕まれてくる。夕方になると室内に物が散乱するような日が続く。何もかも投げ出してしまいたくなったものだ。
 アクティブファンドのファンドマネジャーがこのような苦境を乗り越えるための要素は、2つしかない。第一に、夜も徹してリサーチを行い銘柄選択と相場予想の精緻化を図ること、第二に、気合と根性を失わないこと。後者の「気合と根性」については、3月に出版した自書でも書かせて頂いた。しかし、読者からは、どちらかと言えば批判的な意見が多かったと記憶している。プロのファンドマネジャーが「最後は気合と根性」と言っているようでは、専門職としてのプロ意識に欠けるというような意見であった。
 私は、10年以上前に、商工ファンドの社長であった大島健伸氏に経営者としての全盛期にアナリストとしてお目にかかった際に、経営者として重要な要素を尋ねたところ、「気合と根性」と話しておられた。その時は、正直なところその言葉がピンとこなかった。それは、相場が上下しても金銭的にも精神的にも直接の影響を受けないアナリストという職業の、限界だったと思う。しかし、ファンドマネジャーになって、その意味が痛いほどわかるようになった。ファンドマネジャーは、ファンドの経営者みたいなものである。そこで感じる痛みは、事業経営者が日々感じる痛みと比べたら軽微なものかもしれないが、その一端には通じるものがある。大島氏に毀誉褒貶があることは十分に承知しているが、私は彼の言葉と、ファンドマネジャー経験を通じて、やっと経営者の苦しみが少しだけわかったような気がしている。この8月を何とか乗り越えることができたのも、「気合と根性」の重要性を強く認識して、どんな状況でも仕事を投げ出すことだけはやめようと考え、攻撃的なスタンスを維持したからだと考えている。
 私は、アクティブファンド運用の成功に必要な要諦は、経営者の視点に無限に近づくことだと確信している。だから、多くの批判を受けても以下のことを断言できる。ファンドマネジャーにとって最重要の要素は「気合と根性」だと。それは、経営でも同じだと。そして、このことはパッシブファンドの運用者には、最後まで理解できないと思う。彼らは、企業を数字と文字で捉えているにすぎないからだ。

大木 將充