IT関連企業のオフィス需要として、最も人気の高い地域が渋谷であることには、あまり反対意見はないであろう。コロナ・ショック前は、渋谷の空室率が限りなくゼロに近づき、企業が渋谷に近い他の場所を探す必要に迫られた。まずその恩恵を受けたのは、街としてのイメージの良さや住みたい街ランキングの常連であることを反映して隣駅の恵比寿となった。そこも空室がなくなってくると、次は五反田に熱い視線が注がれることになった。恵比寿の隣の目黒をすっとばして五反田になった理由は、目黒のオフィス供給量の少なさによると思われる。しかし、ここまで来ると、渋谷に近いということを除けば、渋谷との違いが歴然とする。恵比寿のように、渋谷よりも洗練され、落ち着いた街といった独自メリットが見出しがたい。
そんな中で、2020年春にコロナ・ショックが世界を襲い、人気の街であった渋谷でさえ、空室が目立つようになっていった。
しかし、1年経った現在、渋谷の状況は、徐々にではあるが、落ち着きを取り戻しつつあるように感じる。その背景は、上記のコロナ・ショック前の事情を考慮すれば明らかであろう。渋谷にオフィスを構えていた企業の退去の動きは明確にあるが、その結果、渋谷に移りたくても空室がなくて移れなかった五反田や恵比寿にオフィスを構える企業にとっては、渋谷に居を構える千載一遇のチャンスが生じているのだ。
そんな流れの中で、ある不動産関連企業の話を聞く機会があったが、都心のオフィス市場はボトムアウトしつつあるものの、地域ごとの回復度合いはかなり異なるという見方が示された。これからは、REITを含む不動産関連企業を評価する際には、どの地域の不動産を買い、どこを売るかが以前にも増して重要になろう。具体的には、例えば、五反田、大崎のような地域は、街としての魅力が薄いと見られることから、どちらかと言えば売られる方になると予想される。
なお、本件は、オフィスのみならず、マンションなどの居住用不動産にも当てはまろう。コロナ問題で、2020年夏頃までは都心の住宅需要が一時的に減退したが、新築・中古とも供給も限定的であったため、価格の低下は一時的かつ小幅に終わり、むしろコロナ問題で不動産価格下落を見込んで様子見を決め込んだ潜在的需要者が、価格が下がらないと見るや、人気地域の不動産に積極的に触手を伸ばしていった。だから、3A(青山、麻布、赤坂)をはじめとする人気地域の不動産価格は、むしろコロナ・ショック前より上昇し、バブル期の高値に接近しつつある。
一方で、オフィスと同様に、これから沈んでいく地域もあるはずだ。そして、沈む地域の代表格が、大木レポートNo.0142で言及したように、「ハザードマップ」で浸水等の災害リスクが高い地域であると思われる。
大木 將充