No.0148

2022年の「第34回人気アナリスト調査」結果への雑感②(各論)

 引き続き、2月27日の日経ヴェリタス誌で発表された、「人気アナリスト調査」(アナリストランキング)について述べてみたい。

 今回の1位の顔ぶれを見ると、総合部門を含めた33部門中、1位の交代があったのは、銀行、小売、レジャー・アミューズメントの3つのみで、残りの30部門は去年と同じであった。去年も変化が小さいと思ったが、それでも10部門で1位の人の入れ替わりがあった。これには2つの意味があると思う。第一に1位の人と2位以下の人の間に大きな段差がある可能性、第二に新しい人が育っていない可能性だ。

 まず、他のアナリストとの比較で有意な強みを持つ人は、以下の例のように、確かに存在すると思われる。「家電・AV機器」の中根康夫さんは凄みを感じるほどのグローバルのサプライチェーン分析の強みがあるし、化学・繊維担当の山田幹也さんは学者顔負けの知識を有する。証券・保険・その他金融の村木正雄さんはマクロ経済分析まで入り込んだグローバルレベルでの網羅的な金融セクター分析に圧倒されるし、REITの鳥井裕史さんの発行体からも信頼が厚い全体・個別にわたる分析や、電子部品の佐渡拓実さんの様々なレベルの投資家に対応できる「知識や知見の引き出しの多さ」などには、本当に敬服する。このような人たちについては、「真似をやりにくい」という意味で、他のアナリストが追いつくのは容易ではないと感じる。

 ちなみに、昨年のアナリストのプロダクトの中で最も感銘を受けたのは、上記の山田さんによる「戦争=脱炭素」という観点からの分析だった。これは、比喩的にわかりやすいし、そこから得られる結論もシンプルではあるが強い説得力を有していた。アナリスト出身者として、誇らしく思えるほどだ。

 ただし、そのような卓越した人が存在するセクターの方が稀であり、その他の部門では1位を目指す機会は十分にあると思えるのだ。それでも変動が少ないのは、やはり次世代の人たちが育っていない部分は否定できないように思われる。

 もちろん、経験や知識の点で若い人が不利であることは否定できない。しかし、1位の中には30代で5年連続1位となった商社の森本晃さんの例を見ればわかるように、若い人がしっかりとしたクオリティーを伴ってトップになることは不可能ではない。

 では、順位を上げる近道はないのであろうか?

 私は、上位にいる多くのアナリストの共通点として、高い「コミュニケーション能力」を感じている。前述の森本さんや、鉄鋼・非鉄の山口敦さん、機械・造船プラントの田井宏介さん、小売りの高橋敏雄さん、ビジネスソリューションの上野真さんなどは、話がすっと頭に入ってきやすい。これは、無数の情報を、自身の頭の中で独自のフィルターをかけた上で、ロジックと結論を明快に導き出し、完全に自分の言葉に変換できているからこそだと思う。AIで言えば、「アルゴリズム」がしっかりとしているのではないか。逆に、同じような情報量を得ていながら、話を聞いて、結局何を言いたいのかよくわからないアナリストも存在する。結局、高い「コミュニケーション能力」は、高レベルのアルゴリズム、すなわち、高い分析能力と高度な論理力が源泉となっていると考えると、それを身につけるのは簡単ではないかもしれない。しかし、上記のようなハイグレードの人たちと同レベルに達するのは難しくても、近いレベルまでは訓練で到達できるのではないか。そのようなちょっとした努力だけで、獲得票を増やすことは可能であろう。

 ところで、圧倒的強みを有するアナリストが存在する部門以外では、上位を狙う突破口が十分に残されている可能性がある。例えば、住宅・不動産セクターは、本来で言えばコロナ後に大きく人々の生活様式が変わる中で、アナリスト毎に様々な分析や将来展望が見られて然るべきと思われるが、あまり創造性に富んだリサーチが見られず、過去と現在の状況に囚われている印象を私は有する。未来を志向した、大胆な見解をアナリストに期待したいセクターだ。この部門以外でも、このような状態にとどまっているセクターはいくつかあると思われるので、そこが各証券会社の強化のポイントになるように思われる。

 また、投票サイドから見て、投票しにくいセクターがある。放送・広告、インターネット・ゲーム、レジャー・アミューズメント、中・小型株の4セクターだ。なぜかというと、この4部門は、特定のアナリストが複数部門を兼務していたり、逆にカバレッジされている企業が理論的に複数の部門に入りうるという意味で、どの部門にどのアナリストの名前を書いたらいいか迷うのである。例えば、サイバーエージェントは広告企業なのかゲーム会社なのか?中小規模のネット広告代理店は、どの部門に入るのか?というような感じで、この4部門は、純粋に対象会社とアナリストを区分するのが難しい。現に、レジャー・アミューズメント1位の関根哲さんは中・小型株でもランクインしている。また、玄人受けするクオリティーの高いリサーチに定評がある前田栄二さんや、誰にも媚びないど真ん中のリサーチに定評がある村上宏俊さん、独自性の強いリサーチを展開する森田正司さんは、放送・広告、インターネット・ゲーム、レジャー・アミューズメントの3部門に票が分散されてしまっている。特に、前田さんと森田さんは、総獲得票数は500票を超えており、本来的にはこれら4部門の各部門1位の人と同等ないしはそれ以上の評価をされていたとみなすことも可能である。このように、実は有能な人たちが陰に埋もれる結果になる事態を防ぐべく、日経リサーチさんには工夫をして頂きたい。例えば、セクター横断で、アナリスト毎の獲得票数だけをベースにした「アナリストランキング上位30人」を別の表で示すようなことも一案ではなかろうか。

 外資系証券に所属するアナリストについても一言触れたい。日系の証券会社に比べると、外資系証券会社は、高い手数料を払ってくれるなど収益性の高い顧客に重点的にサービスを提供する傾向にある。したがって、顧客層が日系証券との比較で狭く、アナリストに票が入りづらいことは否定できない。したがって、そのような環境下にいながら、上位にいる外資系証券のアナリストは、顧客からの評価がかなり高いと見るべきだと思う。例えば、産業用電子機器の安井健二さんはUBS証券所属で第3位(トップとの差はわずか36点)、ビジネスソリューションの田中誓さんはゴールドマン・サックス証券所属で第2位であるが、実質的には1位と言っても過言ではないくらいの実力者であると私は思っている。

 最後に、個人投資家の皆様から頻繁に聞かれる以下の質問に、明確に答えてみたい。

 「ラジオとかに出ている評論家と、証券会社のアナリストは、どちらが優秀で、どちらが信頼できるのですか?」

 私の答:あくまで一般論として、しかし、私なりのある程度の確信を込めて申し上げます。野球に例えると、証券会社のアナリストは大リーグクラスで、ランキングトップクラスのアナリストは大谷翔平選手レベルと考えて差し支えありません。それに対し、評論家の多くは、稀にプロ野球の二軍クラスの人もいますが、リトルリーグクラスの人が多い印象です。一般論として、しかし、私なりの確信を込めて申し上げると、それくらい大きな差があります。繰り返しますが、これは私の意見なので、他の人の意見もご参照ください。ただし、しつこいようですが、私なりの強い確信があります。

 証券会社のアナリストの皆さん、これからも頑張ってください。

以上

大木 將充